高齢者向け内見・申込対応の実務:現場で詰まりやすい5つの場面

高齢者の入居支援について社内で方針を決めても、実際に成否が分かれるのはカウンターの向こう側です。制度も保険も整えたのに、問い合わせの電話で担当者が言い淀む、申込書の空欄をどう埋めてもらうか迷って手が止まる、審査の途中で判断がつかず案件が宙に浮く。方針と現場の間にあるのは、こうした細かい停滞の積み重ねです。

この差が生まれる理由のひとつは、単純に経験の回数が足りないことにあります。内閣府の令和8年版高齢社会白書によれば、65歳以上の人の住居形態は「持家(一戸建て)」が79.8%、「持家(分譲マンション等の集合住宅)」が3.2%で、持家が8割以上を占めています[1]。賃貸を探す高齢者は母数として多数派ではなく、店舗によっては年に数件しか当たりません。だからこそ対応が属人化し、担当者ごとに結論が変わります。

本記事では、問い合わせから契約直前までを5つの場面に分け、それぞれで判断が止まりやすい点と、拠り所にできる公的資料を整理します。個別の案件の可否を決めるものではなく、社内で手順を揃えるための下地としてお読みください。

場面1:問い合わせ・物件提案──「受け入れ可」の確認を後回しにしない

最初の停滞は、電話やメールの段階で起きます。年齢を聞いた時点で紹介できる物件が思い浮かばず、曖昧な返答になる。あるいは提案してから大家に確認して断られ、二度手間になる。どちらも、受け入れ可否の情報が事前に整理されていないことから生じます。

ここで手がかりになるのが、住宅セーフティネット制度です。国土交通省の説明によれば、セーフティネット登録住宅は住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度で、賃貸人は都道府県・政令市・中核市に賃貸住宅を登録することができ、都道府県等は登録された住宅の情報を住宅確保要配慮者等に広く提供する仕組みになっています[2]。つまり「高齢者の入居を拒まない」という条件が、物件単位であらかじめ公的に表明されている物件群が存在します。

2025年(令和7年)10月1日に施行された改正住宅セーフティネット法では、これに加えて居住サポート住宅が設けられました。居住支援法人等が大家と連携して、①日常の安否確認、②訪問等による見守り、③生活・心身の状況が不安定化したときの福祉サービスへのつなぎを行う住宅と定義されています[2]。制度全体の構造は改正住宅セーフティネット法の解説記事で扱っています。

実務として先にやっておきたいのは、自社の管理物件について「受け入れ可・条件付き可・不可」を事前に棚卸ししておくことです。条件付き可の場合は、その条件(保証会社の利用、見守りの導入、緊急連絡先の確保など)まで併せて記録しておくと、問い合わせの場で提案の幅を返せます。何を条件として設計するかの考え方は空室対策の判断基準の記事にまとめました。

場面2:内見の同行──誰が来るかで確認する項目が変わる

高齢者の内見では、本人だけで来店するとは限りません。子や親族が同行する場合、ケアマネジャーや地域の支援者が同行する場合、逆に誰の同行もない場合とで、その場で確認できることが変わります。ここを想定せずに臨むと、内見後に「結局、誰に何を確認すればよいのか」が分からないまま案件が止まります。

支援者側の窓口として知っておきたいのが地域包括支援センターです。厚生労働省によれば、市町村が設置し、地域の高齢者の総合相談、権利擁護、地域の支援体制づくり、介護予防の必要な援助を行う中核機関で、令和7年4月末現在で全国に5,487か所(支所を含めると7,374か所)が設置されています[3]。地域包括ケアシステムは、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される体制として推進されているものです[3]。住まいはこの体制の構成要素のひとつであり、不動産会社は当事者の位置にいます。

内見の場で押さえておきたいのは、物件の説明よりもむしろ入居後の生活が誰によって支えられるのかの輪郭です。同行者がいるならその人が今後どこまで関与するのか、いないなら普段相談している先があるのかを、事務的にならない形で確認しておく。この情報は、後の申込書の緊急連絡先欄や、大家への説明材料に直結します。

物件そのものについては、段差・浴室・階段・エレベーターの有無といった住環境の確認に加えて、周辺の生活動線(買い物、医療機関、公共交通)まで一緒に見ておくと、入居後のミスマッチを減らせます。高齢者の入居が断られる場面で挙がる懸念の構造は高齢者の入居を断る理由と対策の記事で整理しています。入居後に手すりの取付けなどを求められたときの承諾の考え方は入居者から手すりを付けたいと言われたら——介護保険の住宅改修と、オーナーの承諾書・退去時の原状回復にまとめています。

場面3:申込書の記入──緊急連絡先と保証人を分けて扱う

もっとも手が止まりやすいのが、申込書の記入です。連帯保証人の欄が埋まらない、緊急連絡先に書ける親族がいない。ここで担当者が「保証人がいないなら難しい」と反射的に答えてしまうと、その時点で案件は終わります。

押さえておきたいのは、緊急連絡先と保証人は別の機能を持つという点です。緊急連絡先は入居後に何かあったときの連絡経路であり、保証人は債務の履行を担保する仕組みです。前者は連絡が取れる相手であればよく、後者は保証会社に置き換えられます。この二つを一括りにして「親族がいないから不可」と処理すると、代替手段があるケースまで落としてしまいます。

制度の側でもこの分離は進んでいます。国土交通省は、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律にもとづき、登録家賃債務保証業者等から一定の要件を満たす者を国土交通大臣が認定する認定家賃債務保証業者制度を設けており、住宅確保要配慮者が利用しやすい家賃債務保証業者を認定する仕組みとして位置づけられています[2]。保証の担い手と居住支援法人の役割分担は家賃債務保証と居住支援法人の記事で詳しく扱いました。

申込書の運用としては、(1)緊急連絡先の欄に「続柄」を親族に限定する記載があれば見直す、(2)連絡先が複数取れる場合は優先順位まで記録する、(3)保証の手当ては保証会社の利用可否として別欄で管理する、という三点が最低限の整備になります。書式そのものに親族前提の設計が残っていると、現場がどれだけ柔軟に考えても入口で弾かれます。

場面4:審査・条件調整──断る前に組み替えられる要素を洗う

審査で保留になったとき、そのまま見送るか、条件を組み替えて再提案するかで結果は変わります。そして組み替えの選択肢を持っているかどうかは、担当者の経験ではなく社内の準備の問題です。

大家側の心理も、実は一枚岩ではありません。令和7年版高齢社会白書によれば、賃貸人の高齢者入居に対する意識は「拒否感はあるものの従前より弱くなっている」が44%、「従前と変わらず拒否感が強い」が16%、「従前より拒否感が強くなっている」が6%で、合わせて7割弱が何らかの拒否感を持っています[4]。ただしその内訳を見ると最も多いのは拒否感が弱まりつつある層であり、材料の出し方によって話が動く余地があることも示しています。

組み替えの材料は、大きく三つに整理できます。一つ目は保証で、前述の認定家賃債務保証業者制度をはじめとする家賃債務保証の活用です[2]。二つ目は見守りで、居住サポート住宅では居住支援法人等が大家と連携して日常の安否確認・訪問等による見守り・福祉サービスへのつなぎを行うとされており[2]、民間サービスを組み合わせる形もあります。選び方の観点は見守りサービスの記事に、実際の見守りの実際のサービス内容を見ることができます。三つ目は退去時の手当てで、後述する残置物の処理を契約段階で仕込んでおく方法です。

この三つを個別に出すのではなく、組み合わせた状態で一度に提示するほうが大家の判断は進みます。懸念が複数あるときに対策を一つずつ出すと、そのつど新しい不安が返ってくるためです。費用面の懸念にどう答えるかは原状回復費用の負担に関する記事で扱っています。

場面5:重要事項説明と契約直前──告知と残置物をここで詰める

最後の場面は、宅地建物取引業者としての説明義務が正面から関わる領域です。とくに過去に人が亡くなった住戸を扱うとき、何をどこまで告げるべきかで現場は迷います。

この点について国土交通省は、令和3年(2021年)10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました[5][6]。ガイドラインは、取引の対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)については原則として告げなくてもよいとしています[5]。また、賃貸借取引の対象不動産・日常生活において通常使用する必要がある集合住宅の共用部分で発生した、自然死・日常生活の中での不慮の死以外の死が発生し、事案発生から概ね3年が経過した後は原則として告げなくてもよい、とされています[5]。ただしこれらにかかわらず、買主・借主から問い合わせがあった場合や社会的影響が大きい場合には告知が必要です[5]

ガイドラインの本文(令和3年10月)、概要(令和6年3月更新)、賃貸取引のポイントは国土交通省のページで公開されています[6]。個別事案の判断は事情によって変わるため、自社の運用ルールを作る際は原文にあたり、必要に応じて専門家の確認を経ることをおすすめします。

もうひとつ、この段階で決めておきたいのが残置物の扱いです。国土交通省と法務省は「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定しており、賃貸借契約の解除を内容とする解除関係事務委任契約と、居室内の動産処理を内容とする残置物関係事務委託契約を組み合わせる構成になっています[7]。活用ガイドブックは第2版(令和7年10月作成)が公開されています[7]。加えて改正住宅セーフティネット法の施行日から、居住支援法人の業務に入居者からの委託にもとづく残置物処理が追加され、実施にあたってはこのモデル契約条項を活用することとされています[2]

契約書式そのものについては、国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」が家賃債務保証業者型・連帯保証人型の2種類(いずれも平成30年3月版)で公開されています。使用が法令で義務づけられているものではありませんが[8]、令和6年(2024年)12月に死後事務委任契約の締結を前提とした賃貸借契約を締結する際の特約項目の記載例が<作成にあたっての注意点>および<解説コメント>に追加されており[8]、自社書式を点検する物差しとして使えます。契約時に確認すべき項目の全体像は高齢者の賃貸契約チェックリストに、入居後の伝え方の設計はコミュニケーション設計の記事にまとめています。

5つの場面を1枚に:現場で使える確認項目

最後に、ここまでの内容を店舗で共有できる形にまとめます。案件の可否を判定するものではなく、判断が止まったときに立ち返る順序です。

□ 問い合わせ:管理物件の「受け入れ可・条件付き可・不可」を事前に棚卸ししてあるか。条件付き可の条件まで記録されているか[2]
□ 問い合わせ:セーフティネット登録住宅・居住サポート住宅という選択肢を、提案の引き出しとして持っているか[2]
□ 内見:同行者の有無と、入居後に生活を支える相手を確認したか。相談先がない場合に地域包括支援センターの存在を案内できるか[3]
□ 内見:住戸内の設備だけでなく、周辺の生活動線まで一緒に確認したか。
□ 申込書:緊急連絡先と保証人を別の欄・別の機能として扱う書式になっているか。続柄を親族に限定する記載が残っていないか。
□ 申込書:保証会社の利用可否を独立した項目として管理しているか[2]
□ 審査:保留になった際に、保証・見守り・退去時の手当ての三つを組み合わせて再提案する準備があるか[2]
□ 契約直前:人の死の告知について、ガイドラインの原文にもとづく社内ルールがあるか[5][6]
□ 契約直前:解除関係事務委任契約・残置物関係事務委託契約を、モデル契約条項と活用ガイドブック第2版に沿って案内できるか[7]
□ 契約直前:標準契約書の令和6年12月追加分(死後事務委任契約を前提とした特約項目の記載例)を確認したか[8]

高齢者の内見・申込対応で難しいのは、一つひとつの判断が特別に高度だからではありません。判断の頻度が低く、拠り所が手元にないまま現場で即答を求められるからです。5つの場面それぞれについて「ここではこれを見る」を決めておけば、担当者が変わっても対応の幅は揃います。すべての案件が成約に至るわけではありませんが、判断できないまま止まる案件を減らすことにはつながります。取り組み自体をどう社内で位置づけるかは不動産会社の社会的意義に関する記事で扱っています。

出典
  1. 内閣府「令和8年版高齢社会白書(全体版)」第1章第2節4 生活環境(65歳以上の者の住居形態は「持家(一戸建て)」79.8%、「持家(分譲マンション等の集合住宅)」3.2%で、持家が8割以上)。cao.go.jp(PDF)
  2. 国土交通省「住宅セーフティネット制度」(改正住宅セーフティネット法は令和7年〈2025年〉10月1日施行/セーフティネット登録住宅は住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度で、賃貸人は都道府県・政令市・中核市に登録でき、都道府県等が登録住宅の情報を広く提供/居住サポート住宅は居住支援法人等が大家と連携して日常の安否確認・訪問等による見守り・生活や心身の状況が不安定化したときの福祉サービスへのつなぎを行う住宅/同日から居住支援法人の業務に入居者からの委託に基づく残置物処理を追加し、実施にあたっては国土交通省・法務省が策定したモデル契約条項を活用/登録家賃債務保証業者等から一定の要件を満たす者を国土交通大臣が認定する認定家賃債務保証業者制度)。mlit.go.jp
  3. 厚生労働省「地域包括ケアシステム」(地域包括支援センターは市町村が設置し、地域の高齢者の総合相談、権利擁護や地域の支援体制づくり、介護予防の必要な援助を行う中核機関/令和7年4月末現在で全国に5,487か所、支所を含めると7,374か所/地域包括ケアシステムは、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される体制)。mhlw.go.jp
  4. 内閣府「令和7年版高齢社会白書(全体版)」第1章第2節4 生活環境(賃貸人の高齢者の入居に対する意識は「拒否感はあるものの従前より弱くなっている」44%・「従前と変わらず拒否感が強い」16%・「従前より拒否感が強くなっている」6%)。cao.go.jp
  5. 国土交通省 報道発表「『宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン』を策定しました」(令和3年〈2021年〉10月8日発表/取引の対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死〈転倒事故、誤嚥など〉は原則として告げなくてもよい/賃貸借取引の対象不動産・日常生活において通常使用する必要がある集合住宅の共用部分で発生した、自然死・日常生活の中での不慮の死以外の死が発生し、事案発生から概ね3年が経過した後は原則として告げなくてもよい/買主・借主から問い合わせがあった場合や社会的影響が大きい場合は告知が必要)。mlit.go.jp
  6. 国土交通省 不動産業「『宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン』について」(令和3年〈2021年〉10月策定/ページに本文〈令和3年10月〉・概要〈令和6年3月更新〉・賃貸取引のポイントを掲載)。mlit.go.jp
  7. 国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」(賃貸借契約の解除を内容とする解除関係事務委任契約と、居室内の動産処理を内容とする残置物関係事務委託契約の組み合わせ/主な対象は単身の高齢者/活用ガイドブック第2版は令和7年〈2025年〉10月作成)。mlit.go.jp
  8. 国土交通省「『賃貸住宅標準契約書』について」(家賃債務保証業者型・連帯保証人型の2種類、いずれも平成30年3月版/標準契約書は使用が法令で義務づけられているものではない/令和6年〈2024年〉12月に、<作成にあたっての注意点>および<解説コメント>へ、死後事務委任契約の締結を前提とした賃貸借契約を締結する際の特約項目の記載例を追加)。mlit.go.jp

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