高齢者の入居に取り組んでいる会社ほど、その意義を社外に説明する場面で言葉に詰まりがちです。「社会貢献」「地域のため」と言えば伝わりそうですが、それでは善意の話として受け取られ、事業としての位置づけが見えません。取引先の金融機関、管理を任せている大家、採用の候補者——説明する相手によって、響く言葉も変わります。
実は、この「説明の言葉」にあたるものを、国はすでに枠組みとして整理しています。不動産が社会課題の解決にどう貢献するかを分類し、評価の項目として並べた公的資料が公開されており、そこには「高齢者支援」が明確な項目として置かれています。本記事では、その枠組みの中身と、自社の取り組みをそこにどう当てはめるかを、公的資料にもとづいて整理します。取り組みの効果を保証するものではなく、あくまで説明の材料としてお読みください。
国は「社会的インパクト不動産」という枠組みを示している
国土交通省は令和5年(2023年)3月24日、「社会的インパクト不動産」の実践ガイダンスを公表しました[1]。これは「不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会」が9回の議論を経てまとめたもので、ESG投資のうち特に社会課題(S)に焦点を当てた資料です[1]。
ガイダンスは「社会的インパクト不動産」を、企業等が中長期にわたる適切なマネジメントを通じて、ヒト(利活用者)・地域(地域社会)・地球(地球環境)が抱える課題の解決に取り組むことで社会的インパクトを創出し、社会の価値創造に貢献するとともに、不動産としての価値向上と企業の持続的成長を図る不動産、と定義しています[2]。抽象的に聞こえますが、要点は「社会課題への取り組みを、不動産そのものの価値と企業の成長に接続して捉える」という一点です。
この整理が置かれた背景として、ガイダンスは不動産が我が国の非金融法人の総資産の約4分の1、およそ624兆円を占めることを挙げています[2]。また、不動産へのESG投資の規模は約12兆円(2021年)に拡大しているとされます[1]。同時にガイダンスは、不動産が社会価値の向上に資するという認識はまだ一般的とはいえず、その価値が不動産の評価に十分反映されている状況にもない、とも率直に記しています[2]。裏を返せば、説明する側が自分の言葉を持てば、まだ差がつく領域だということです。
ガイダンスの中核は、不動産に係る社会課題・取り組みを4段階・14課題・52項目に整理・類型化した一覧です[1][2]。4段階とは「①安全・尊厳」「②心身の健康」「③豊かな経済」「④魅力ある地域」で、それぞれに社会課題と評価分野、具体的なアクティビティ(評価項目)が紐づけられています[2]。
高齢者の住まいは、この枠組みのどこに位置づくか
では、高齢者の入居支援はどこに入るのか。ガイダンスの一覧を追うと、最初の段階である「①安全・尊厳(命や暮らし、尊厳が守られる社会)」のなかに「こども・少子高齢化への対応」という社会課題があり、その評価分野として「高齢者支援」が置かれています[2]。不動産の貢献は「高齢者向けの不動産整備と支援の提供」とされ、具体的なアクティビティとして「高齢者向けの住宅や支援施設の整備及び支援の提供」「バリアフリー設備の設置」の2つが挙げられています[2]。
加えて同じ「①安全・尊厳」の段階には「多様性・包摂性の実現」という社会課題があり、そのアクティビティのひとつに「手頃で一定の質が確保された住宅の整備」が含まれます[2]。バリアフリー、乳幼児連れ、宗教・文化、障がい者などへの配慮と並ぶ形で、住宅そのものの確保が評価項目に位置づけられている点は押さえておきたいところです。
さらに「④魅力ある地域」の段階では、地域のまちづくりへの貢献として「空き家・空き店舗、既存住宅等の活用や除却」が挙げられています[2]。空室の活用と高齢者の受け入れを同時に進める取り組みは、この項目にも重なります。空室側からの判断の考え方は空室対策の判断基準の記事で整理しました。
重要なのは、これらが「やってもやらなくてもよい善行」としてではなく、投資家・金融機関との対話に使う評価項目の一覧として並んでいることです。ガイダンス自身は、すべての項目を満たすことを求める趣旨ではなく、個々の不動産の特性や地域の実情を踏まえて適切な項目を選び、カスタマイズして使えるものとして作成した、と説明しています[2]。自社が扱う物件で該当する項目を拾い出すという使い方が想定されているわけです。
課題の規模を、公的統計で押さえる
社会的意義を語るときに欠かせないのが、対象となる課題の大きさです。ここは推測を挟まず、公的統計をそのまま引くのが確かです。
総務省統計局の令和5年住宅・土地統計調査(2023年10月1日現在)によると、65歳以上の世帯員がいる世帯は2,375万世帯で主世帯全体の42.7%、うち高齢単身世帯は761万7千世帯(高齢者のいる世帯の32.1%)と過去最高になりました[3]。住まいの持ち方を見ると、高齢者のいる世帯全体では借家が18.2%にとどまる一方、高齢単身世帯では借家が32.2%に上がり、うち民営借家が21.0%を占めます[3]。単身高齢世帯の3世帯に1世帯近くが借家に住み、その多くを民間の賃貸が担っているという構図です。
この層は今後さらに増える見通しです。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」2024年推計では、世帯主が65歳以上の単独世帯は2020年の738万世帯から2050年には1,084万世帯へと1.47倍に増え、一般世帯総数に占める割合は13.2%から20.6%へ上昇するとされています[4]。地域ごとの偏りについては都道府県別データの記事で扱っています。
住宅側の対応状況も数字で確認できます。高齢者等のための設備がある住宅は3,115万5千戸で住宅全体の56.0%、2018年の50.9%から5.1ポイント上昇しました[3]。設備別では「手すりがある」44.0%、「段差のない屋内」22.3%、「またぎやすい高さの浴槽」20.5%です[3]。ガイダンスが挙げる「バリアフリー設備の設置」というアクティビティは、この水準を自社の在庫でどこまで満たしているかという形で、具体的な進捗として語れます。
制度の側にも「担い手」の枠がある
社会的意義を説明するもうひとつの足場が、制度上の位置づけです。改正住宅セーフティネット法は令和7年(2025年)10月1日に施行され、住宅確保要配慮者の入居を拒まない「セーフティネット登録住宅」と、居住支援法人等が入居中のサポートを行う「居住サポート住宅」が制度の柱となりました[5]。制度全体の流れは改正住宅セーフティネット法の記事で解説しています。
この制度がどれだけ動いているかは、国土交通省が公表している実数で確認できます。令和7年(2025年)12月末時点で、セーフティネット登録住宅の登録戸数は956,481戸、居住支援法人の指定数は1,120法人、居住支援協議会の設立は176協議会(47都道府県140市区町村)に達しています[6]。居住支援法人は都道府県がNPO法人、一般社団法人、社会福祉法人、居住支援を目的とする株式会社等を指定するもので、家賃債務保証の提供、入居に係る住宅情報の提供・相談、見守りなどの生活支援を担います[6]。
不動産会社にとって見逃せないのは、居住支援協議会の構成員です。国土交通省の資料では、協議会は地方公共団体の住宅部局・福祉部局、不動産関係団体(宅地建物取引業者、賃貸住宅管理業者、家主等)、居住支援法人・社会福祉協議会などの福祉関係団体が連携して設立するものと明記されています[6]。つまり宅建業者は、この居住支援の体制のなかで最初から担い手として想定されている立場です。「社会的意義」は外から与えられる評価ではなく、制度上すでに割り当てられている役割だと言い換えられます。
予算面では、居住支援協議会等活動支援事業として令和8年度当初予算に10.81億円が計上され、事業期間は令和6年度から令和10年度までとされています[6]。補助の対象事業には、入居前支援(相談窓口の開設や不動産店・内覧の同行等)、入居中支援(見守りや生活相談、緊急時対応等)、地方公共団体等との連携による居住サポート住宅の供給促進などが含まれます[6]。自社が直接の補助対象にならない場合でも、地域の協議会や居住支援法人と組む際に、相手側がどの枠組みで動いているかを知っておくと話が早くなります。連携の実務にあたる家賃債務保証の仕組みは家賃債務保証と居住支援法人の記事に、入居中の見守りの選び方は見守りサービスの記事にまとめました。具体的なサービスの内容は居住支援法人が担う見守りサービスの内容を見ることでも確認できます。
「対話」の材料として、社内外にどう説明するか
ガイダンスが繰り返し使う言葉に「資金対話」と「事業対話」があります。前者は企業等と投資家・金融機関等の対話、後者は企業等と利活用者・地域・行政等の対話を指し、両者の「共通言語」となる評価の枠組みが求められている、というのがガイダンスを策定した動機として説明されています[2]。この整理は、不動産会社の日常にもそのまま当てはまります。
金融機関や本社に向けては、「高齢者の入居に取り組んでいます」ではなく、「国のガイダンスが定める社会課題のうち『こども・少子高齢化への対応』の評価分野『高齢者支援』にあたる取り組みを、管理戸数◯戸のうち◯戸で実施しています」という形にすると、位置づけが伝わります。大家に向けては、居住支援法人1,120法人・居住支援協議会176協議会という体制のなかに自社が入っている、という説明が安心材料になります。採用や地域への説明では、単身高齢世帯761万7千世帯・借家率32.2%(2023年)という規模の話が入口になります。
説明の材料は、さらに増えつつあります。国土交通省は「社会的インパクト不動産」実装に向けた実務者勉強会を開催しており、令和7年度の成果として「実践事例集」を公開しています[7][8]。他社がどの課題をどう言語化しているかを見るには、これらの資料が手がかりになります。
この枠組みを実際の指標に落とす手順は、不動産の非財務価値をKPIに落とす手順で整理しています。
一方で注意しておきたいのは、ガイダンス自身が「定型化や形式主義の罠に陥ることに十分に注意しつつ」と釘を刺している点です[2]。項目を埋めること自体が目的になると、実務が空洞化します。実際に入居が決まり、入居後の暮らしが続いていることが先にあって、その説明として枠組みを使う——順番はこちらです。
着手するなら、この3ステップから
最後に、自社の取り組みを説明できる形にするための手順を整理します。いずれも成果を約束するものではなく、社内外への説明を組み立てるための準備です。
ステップ1:該当する項目を拾い出す。ガイダンスの4段階14課題52項目のうち、自社の現在の業務がすでに該当している項目に印を付けます。多くの会社にとっては「高齢者支援」「多様性・包摂性の実現」、空室活用を行っていれば「地域のまちづくりへの貢献」が候補になります[2]。新しく何かを始める前に、すでにやっていることの棚卸しから入るほうが早く形になります。
ステップ2:数えられる形にする。取り組みの規模を、管理戸数・成約件数・バリアフリー設備の設置状況といった自社で把握できる数字に置き換えます。住宅・土地統計調査の全国値(高齢者等のための設備がある住宅56.0%、手すり44.0%など、2023年)と並べれば、自社の位置が相対的に示せます[3]。
ステップ3:制度側の枠に接続する。営業エリアの居住支援協議会が設立されているか、連携できる居住支援法人があるかを確認します。全国176協議会・1,120法人という規模なので、多くのエリアで相手方が存在します(令和7年12月末時点)[6]。契約面の準備は賃貸契約のチェックリストを参照してください。
高齢者の住まいへの取り組みは、社会的意義と事業性のどちらか一方を選ぶ話ではありません。国のガイダンスが不動産の価値向上と社会課題への貢献を同じ枠組みで扱っているのは、その2つを接続することを前提にしているからです。まずは自社がすでに行っていることを、その枠組みの言葉で言い直すところから始められます。
- 国土交通省 報道発表資料「『社会的インパクト不動産』の実践ガイダンスを公表します」(令和5年〈2023年〉3月24日公表/検討会の開催9回/不動産に係る社会課題・取組を4段階14課題52項目に整理/不動産へのESG投資の規模は約12兆円〈2021年〉に拡大)。mlit.go.jp
- 国土交通省「『社会的インパクト不動産』の実践ガイダンス」(令和5年3月。社会的インパクト不動産の定義/不動産は非金融法人の総資産の約1/4・約624兆円/社会価値向上の認識はまだ一般的とはいえないとの記述/4段階=①安全・尊厳 ②心身の健康 ③豊かな経済 ④魅力ある地域/社会課題「こども・少子高齢化への対応」の評価分野「高齢者支援」=アクティビティは高齢者向けの住宅や支援施設の整備及び支援の提供・バリアフリー設備の設置/「多様性・包摂性の実現」に手頃で一定の質が確保された住宅の整備/「地域のまちづくりへの貢献」に空き家・空き店舗、既存住宅等の活用や除却/「資金対話」「事業対話」の共通言語/定型化や形式主義の罠への注意/すべての項目を満たす趣旨ではなくカスタマイズして活用可能)。mlit.go.jp(PDF)
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」(2023年10月1日現在。65歳以上の世帯員がいる世帯2,375万世帯・42.7%/高齢単身世帯761万7千世帯・32.1%/高齢者のいる世帯の借家18.2%/高齢単身世帯の借家32.2%・うち民営借家21.0%/高齢者等のための設備がある住宅3,115万5千戸・56.0%〈2018年50.9%から5.1ポイント上昇〉/手すりがある44.0%・段差のない屋内22.3%・またぎやすい高さの浴槽20.5%)。stat.go.jp(PDF)
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」2024年推計(世帯主が65歳以上の単独世帯は2020年738万世帯→2050年1,084万世帯・1.47倍/一般世帯総数に占める割合13.2%→20.6%)。ipss.go.jp(PDF)
- 国土交通省「住宅セーフティネット制度」(改正住宅セーフティネット法は令和7年〈2025年〉10月1日施行/セーフティネット登録住宅/居住サポート住宅)。mlit.go.jp
- 国土交通省 住宅局安心居住推進課「『居住支援協議会・居住支援法人』の活動を支援します!」(令和8年4月9日。令和7年12月末時点でセーフティネット登録住宅の登録戸数956,481戸・居住支援法人の指定数1,120法人・居住支援協議会176協議会〈47都道府県140市区町村〉/居住支援法人は都道府県がNPO法人・一般社団法人・社会福祉法人・居住支援を目的とする株式会社等を指定/協議会の構成員に地方公共団体〈住宅部局・福祉部局〉、不動産関係団体〈宅地建物取引業者・賃貸住宅管理業者・家主等〉、居住支援法人・社会福祉協議会等/居住支援協議会等活動支援事業の令和8年度当初予算10.81億円・事業期間 令和6年度〜令和10年度/補助対象に入居前支援・入居中支援・地方公共団体等との連携)。mlit.go.jp(PDF)
- 国土交通省「『社会的インパクト不動産』実装に向けた実務者勉強会」(実践ガイダンスおよび令和7年度の成果物「実践事例集」を掲載)。mlit.go.jp
- 「社会的インパクト不動産」実装に向けた実務者勉強会「『社会的インパクト不動産』実践事例集」。mlit.go.jp(PDF)
その言い直しを開示や対話の書式にまで落とし込む手順は、不動産会社の非財務情報・人的資本開示に「高齢者受け入れ」はどう効くのかで扱っています。