高齢の入居希望者を紹介したくても、オーナーの同意が得られない——現場でよく聞く悩みです。国土交通省の調査でも、賃貸オーナーの拒否感は根強いことが示されています。本記事では、拒否感の理由をデータで確認したうえで、不動産会社が用意できる3つの備えと、後押しとなる制度を整理します。
賃貸オーナーの約7割が「拒否感」
国土交通省の調査によると、賃貸人の約7割が高齢者への賃貸に拒否感があると回答しています[1]。政府広報オンラインでも、単身高齢者の入居に対するオーナーの不安が課題として紹介されています。拒否感の主な理由は、居室内での死亡事故等への不安、いわゆる「孤独死リスク」への懸念とされています。
つまり、拒否感の正体は「高齢者そのもの」ではなく、「万一のときにどうなるか分からない」という不確実性です。ここが解ければ、受け入れの余地は大きく広がります。
不安を解く3つの備え
1. 見守りの仕組み
安否確認や見守りのサービスを組み合わせることで、「何かあってもすぐ気づける」状態をつくれます。オーナーが最も恐れる「発見が遅れる事態」への直接的な対策になり、説明材料としても有効です。
2. 保険による備え
いわゆる孤独死保険(原状回復費用や家賃損失などに備える保険)を活用すれば、万一の際の金銭的な負担に対する備えを示せます。補償の内容や上限額は商品によって異なるため、条件をオーナーに具体的に説明できるようにしておくことが重要です。
3. 受け入れに前向きな大家との接点
そもそも高齢者の受け入れに理解のある大家と出会えれば、交渉の負担は大きく下がります。自社の人脈だけに頼らず、受け入れ側の募集ができるネットワークを持つことが、安定した紹介につながります。受け入れに前向きな大家は、すでに高齢入居者の対応経験を持っていることも多く、現場の運用ノウハウを共有しやすい点もメリットです。
この3つは、それぞれ単独でも効果がありますが、組み合わせることで説明の説得力が増します。たとえば「見守りで早期に気づける」「保険で万一の費用に備える」「経験のある大家が受け入れる」という3点をセットで提示できれば、オーナーが抱く漠然とした不安を、具体的な備えの話に置き換えられます。不安の正体は情報の不足であることが多いため、材料をそろえておくこと自体が、交渉の質を高めます。
制度も後押し:改正住宅セーフティネット法
2025年10月には、改正住宅セーフティネット法が施行され、単身高齢者などが安心して住まいを確保できるよう「居住サポート住宅」の枠組みなどが整えられました[2]。国が支援の仕組みを整える流れは、高齢者を受け入れる不動産会社にとって追い風です。制度を正しく理解し、オーナーへの説明に活かすことで、拒否感の払拭につなげられます。
断り方ではなく、受け入れ条件の設計から考える
現場では「どう断られたか」を振り返る場面が多くなりがちですが、成果につながりやすいのは、そもそもどんな条件なら受け入れられるのかを先に設計しておく進め方です。大家の不安は漠然としているようで、実際には保証・見守り・残置物の3点にほぼ集約されます。提示の順序を決めておくと、その場の説明が安定します。年齢を理由に断ることがどの場面で問題になるかは高齢者の入居を断るのは違法か——年齢で断ることが問題になる3つの場面で確かめています。
第1に、保証(お金の不安)から入る。家賃滞納への備えは、大家がもっとも具体的にイメージしやすい論点です。家賃債務保証業については、一定の要件を満たす業者を国土交通大臣が登録する登録家賃債務保証業者制度があり、さらに住宅確保要配慮者が利用しやすい業者を国土交通大臣が認定する認定家賃債務保証業者制度も設けられています[3]。加えて、家賃債務保証業者や居住支援法人が登録住宅の入居者に家賃債務を保証する場合、住宅金融支援機構がその保証を保険する仕組みも用意されています[3]。制度の詳しい中身は家賃債務保証と居住支援法人:高齢者入居を支える仕組みで整理しています。
なお、この「お金の不安」が公表データでどこまで裏づけられるのかについては、高齢者の家賃滞納は本当に多いのか——公表データで確かめるで検証しています。
第2に、見守り(発見の遅れへの不安)を示す。金銭面の話が片づくと、次に出てくるのが「何かあったときに気づけるのか」です。ここで前掲の見守りの仕組みが効きます。制度面でも、2025年10月1日施行の改正住宅セーフティネット法で、居住支援法人等が大家と連携して日常の安否確認や訪問等による見守り、福祉サービスへのつなぎを行う「居住サポート住宅」の認定制度が設けられました[3]。自社だけで抱える話ではないと示せる点が、この順序の利点です。
第3に、残置物(亡くなった後の不安)に触れる。もっとも答えにくいこの論点にも、制度側の受け皿があります。2025年10月1日から、居住支援法人の業務に「入居者からの委託に基づく残置物処理」が追加され、その実施にあたっては2021年(令和3年)6月に国土交通省と法務省が共同で策定した「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を活用することとされています[3]。「制度として想定されている手順がある」と伝えられること自体が、大家の心理的な負担を下げます。
この順序には理由があります。保証・見守り・残置物は、大家にとって答えやすい順に並んでいるためです。いきなり残置物の話から入ると身構えられやすい一方、金銭面の備えから順に積み上げれば、最後の論点にも落ち着いて向き合ってもらいやすくなります。なお、いずれの制度も利用の可否や条件は個別の状況によって異なるため、地域の自治体・居住支援法人に確認したうえで提示することが前提になります。この提示の順序を、問い合わせから契約直前までの現場の流れに落とし込んだ内容は高齢者向け内見・申込対応の実務:現場で詰まりやすい5つの場面にまとめています。
受け入れ条件を自社の審査項目としてどう組み直すかは高齢者の入居審査:何を見て、どこまで確認するのかで整理しています。
ここで挙げた不安が受け入れ側に残る結果、立ち退きを求められた高齢者の転居先が決まらなくなる構造については、立ち退きを求めた高齢入居者の転居先が見つからないとき——代替物件の提供と公的な受け皿の使い方で扱っています。
まとめ:不安は「備え」で減らせる
約7割という拒否感の数字は大きく見えますが、その中身は「不確実性への不安」です。見守り・保険・受け入れ大家との接点という3つの備えと、制度の理解があれば、オーナーに安心して提案できる場面は着実に増えます。備えを整えることが、そのまま他社との差別化になります。まずは自社で説明できる材料をひとつずつそろえるところから始めてみてください。小さな備えの積み重ねが、断られていた提案を「前向きに検討します」に変えていきます。すでに受け入れている側が契約前に何を済ませているのかは、高齢者の入居を断らない物件はどこが違うのか——受け入れている側が契約前に済ませている4つの準備で分解しています。
それでも自社では受けきれない申込みが出たときは、抱え込まずに高齢者の入居に対応している事業者へつなぐという選択肢があります(R65不動産の物件検索・入居相談)。断る以外の返し方を1つ持っておくと、相談そのものが途切れません。
- 国土交通省「住宅確保要配慮者に対する居住支援」関連資料。mlit.go.jp
- 政府広報オンライン「単身高齢者などの賃貸住宅への入居の不安を解消!改正『住宅セーフティネット法』がスタート」。gov-online.go.jp
- 国土交通省「住宅セーフティネット制度 ~誰もが安心して暮らせる社会を目指して~」。登録家賃債務保証業者制度・認定家賃債務保証業者制度・住宅金融支援機構による保険の仕組み、居住サポート住宅(安否確認・見守り・福祉サービスへのつなぎ)、令和7年10月1日からの居住支援法人による残置物処理の追加と「残置物の処理等に関するモデル契約条項」(令和3年6月・国土交通省/法務省)。mlit.go.jp
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