家賃債務保証と居住支援法人:高齢者入居を支える仕組み

単身高齢者から入居の相談を受けたとき、「保証人を頼める親族がいない」「家賃の滞納が心配だと大家に言われた」といった理由で話が前に進まないことがあります。総務省統計局の人口推計によると、2025年10月1日現在の高齢化率は29.4%(65歳以上人口3,622万人)と過去最高を更新しており[6]、こうした相談は今後も増えていくと見込まれます。この場面で使えるのが、住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)にもとづく「居住支援法人」と「家賃債務保証」の仕組みです。本記事では、国土交通省が公表する一次情報をもとに、両者の役割と、2024年の法改正で新設された認定家賃債務保証業者制度までを整理します。制度の説明にとどめ、断定的な効果の表現は避けています。

高齢者の入居を支える2つの仕組み

単身高齢者の入居で大家が不安に感じる点は、大きく「家賃を払い続けてもらえるか」という金銭面と、「何かあったときに誰が対応するのか」という生活面に分かれます。この2つに、それぞれ対応する仕組みが法律上用意されています。金銭面に対応するのが、連帯保証人に代わって家賃債務を保証する「家賃債務保証」。生活面に対応するのが、入居前の相談から入居後の見守りまでを担う「居住支援法人」です。

重要なのは、この2つが別々の制度ではなく、重なり合っている点です。後述するとおり、居住支援法人の業務には家賃債務保証そのものが含まれており、2024年改正で新設された認定家賃債務保証業者制度でも、居住支援法人が認定の対象に含まれています[5]。不動産会社としては、両者をセットで理解しておくと、大家への説明の幅が広がります。

居住支援法人とは:都道府県が指定する居住支援の担い手

居住支援法人とは、住宅確保要配慮者(低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子どもを養育する者など)の民間賃貸住宅への円滑な入居の促進を図るため、都道府県が指定する法人です(住宅セーフティネット法第59条)[1]。指定を受けるのは、NPO法人、一般社団法人・一般財団法人(公益社団法人・公益財団法人を含む)、社会福祉法人、居住支援を目的とする会社などです[2]。指定の申請先や指定基準、連携先として選ぶときの見極め方は居住支援法人の指定を受けるには——指定要件・申請の流れ・連携先の見極め方にまとめています。

居住支援法人が行う業務として、国土交通省の資料では次の6つが挙げられています[2]。①登録住宅の入居者への家賃債務保証、②賃貸住宅への円滑な入居に係る情報提供・相談、③見守りなど要配慮者への生活支援、④賃貸人への賃貸住宅の供給の促進に関する情報提供、⑤残置物処理等(モデル契約条項を活用して実施)、⑥①〜⑤に附帯する業務です。

ここで実務上の注意点があります。同資料には、居住支援法人はこれら①〜⑤のすべての業務を行わなければならないものではない、と明記されています[2]。つまり、法人によって対応できる範囲は異なります。連携先を探す際は、家賃債務保証まで担っているのか、見守りや生活支援が中心なのかを個別に確認する必要があります。なお、③の見守りは孤独死などの発見の遅れに関わる領域で、具体的な仕組みは孤独死の発見の遅れに対応する見守りを見ることでも確認できます。

家賃債務保証:登録制度と、新設された認定制度

家賃債務保証をめぐっては、国土交通省が2つの制度を設けています。ひとつは、2017年に創設された「家賃債務保証業者登録制度」(告示公布2017年10月2日)です[4]。一定の要件を満たす家賃債務保証業者を国に登録して情報を公表するもので、登録は任意とされています。登録業者には、誇大広告の禁止、契約締結前の重要事項の説明・書面交付、賃借人ごとの弁済履歴を記録した帳簿の備付けなど、業務の適正化に関するルールの遵守が求められます[4]

もうひとつが、2024年の法改正で新設された「認定家賃債務保証業者制度」です。これは、住宅確保要配慮者が利用しやすい家賃債務保証業者として、登録家賃債務保証業者または居住支援法人から一定の要件を満たす者を国土交通大臣が認定する制度です[5]。根拠は住宅セーフティネット法第七章(第72条〜第80条)に置かれています[5]

認定の基準として、国土交通省の資料では次の内容が挙げられています[5]。居住サポート住宅に入居する要配慮者の家賃債務保証を正当な理由なく断らないこと。すべての要配慮者との家賃債務保証契約について、緊急連絡先を親族などの個人に限定しない(法人でも可とする)こと、および保証人の設定を条件としないこと。すべての要配慮者との契約に係る保証料が不当に高いものでないこと。要配慮者との契約実績や標準的な契約内容・条件を公表すること。そして、暴力団員の関与がないことなどの欠格事由に該当しないことです。

「緊急連絡先を親族などの個人に限定しない」「保証人の設定を条件としない」という基準は、まさに単身高齢者の入居が止まりやすい論点に対応しています。保証会社を紹介する際は、登録業者か、さらに認定を受けているかを確認したうえで、保証範囲や免責の条件は商品によって異なることを大家・入居者の双方に明確に伝えることが、景品表示法などへの配慮からも大切です。認定の5基準の中身、認定業者が申込みを断ることを認められない場面、認定業者の探し方は「認定家賃債務保証業者」とは:登録との違い・5つの認定基準・断れないケースで個別に整理しています。

認定保証業者と住宅金融支援機構の家賃債務保証保険

認定制度には、保証業者側のリスクを下げる裏付けも用意されています。国土交通省の資料によれば、認定保証業者は、すべての要配慮者の保証に対して独立行政法人住宅金融支援機構(JHF)による家賃債務保証保険を利用できるとされています[5]。この保険は、補填率(7割〜9割)および保険の対象範囲(未払家賃、原状回復費用)に応じて4区分の保険料率が設定されており、個別の案件ごとに選択できる仕組みです[5]

あわせて、認定保証業者に対する指導・監督も定められています。認定の基準に適合しなくなったときの適合命令、違反等に係る報告徴収・立入検査および認定の取消し、違反等による認定取消しの事実の公表などです[5]。保証を引き受ける側の後ろ盾と、利用者を守るための監督が組み合わせて設計されている点は、大家に制度の信頼性を説明する際の材料になります。

居住支援協議会:地域の連携先を見つける場

実際に地域の居住支援法人や保証会社とつながるための窓口として活用したいのが、居住支援協議会です。これは、住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅等への円滑な入居の促進を図るため、地方公共団体が不動産関係団体・居住支援団体等と連携して設立するもので、住宅セーフティネット法第81条第1項にもとづきます[3]

国土交通省の資料によると、2025年6月30日時点で163協議会が設立されており、内訳は全都道府県および125市区町村です[3]。構成員には、都道府県・市区町村の住宅部局および福祉部局のほか、宅建業者・賃貸住宅管理業者・家主等の不動産関係団体、居住支援法人、社会福祉協議会、福祉関係団体が含まれます[3]。つまり、不動産会社は協議会の想定される担い手のひとつに位置づけられています。

協議会の主な活動内容としては、メンバー間の意見・情報交換、要配慮者向けの民間賃貸住宅等の情報発信や紹介・斡旋、住宅相談サービスの実施(住宅相談会の開催、住宅相談員の配置等)、家賃債務保証制度や安否確認サービス等の紹介、賃貸人や要配慮者を対象とした講演会等の開催が挙げられています[3]。なお、2024年の法改正(令和6年法律第43号)により、地方公共団体による居住支援協議会の設置は努力義務とされました[3]。地域によって設立状況や活動の内容は異なるため、自社の営業エリアの協議会の有無と活動を確認するところから始めるのが現実的です。協議会や居住支援法人が置かれている制度全体の枠組みは、改正住宅セーフティネット法で不動産会社がやることで法改正の要点から確認できます。協議会そのものの活動内容・設立状況と、不動産会社が構成員として関わる場合の実務については居住支援協議会とは?不動産会社が連携して得られるメリットで詳しく整理しています。

不動産会社としての実務の使い方

ここまでの内容を、実務で確認したい項目として整理します。いずれも制度・仕組みの活用可否を確認するものであり、効果を保証するものではありません。

□ 居住支援法人:営業エリアの指定法人を都道府県の一覧で調べ、家賃債務保証・情報提供・見守り・残置物処理のうちどこまで対応しているかを個別に確認したか[1][2]
□ 家賃債務保証:紹介する保証会社が登録業者か、さらに認定保証業者かを確認し、保証範囲・免責・条件が商品によって異なることを説明したか[4][5]
□ 認定制度の基準:緊急連絡先を個人に限定しない、保証人の設定を条件としないといった基準の内容を、大家への説明に活かせているか[5]
□ 居住支援協議会:営業エリアの協議会の有無を確認し、相談窓口や連携先として活用できるか検討したか[3]

単身高齢者の入居を断る理由の多くは、保証と生活支援の不安に集約されます。その両方に対応する仕組みが法制度として整備され、2024年改正でさらに具体化されました。これらを把握して大家に提示できることが、高齢者の受け入れを進める不動産会社の実務的な土台になります。実際の契約時に残置物・保証・家財をどの順で確認するかは、高齢者の賃貸契約:残置物・保証・家財の実務チェックリストにまとめています。

連帯保証人そのものを用意できない申込に対して、どの受け皿をどの順で当たるかは高齢入居者に連帯保証人がいない場合の実務対応で整理しています。

保証委託契約の保証料そのものに公的な補助が使えるかどうかは、家賃債務保証料の補助:誰が申請し、いくら出るのかで制度別に整理しています。

出典
  1. 国土交通省「住宅確保要配慮者居住支援法人について」(居住支援法人=住宅セーフティネット法第59条にもとづき都道府県が指定。家賃債務保証の提供、住宅情報の提供・相談、見守りなどの生活支援等を実施)。mlit.go.jp
  2. 国土交通省「居住支援法人制度の概要」(指定される法人の類型/業務①〜⑥/①〜⑤のすべてを行わなければならないものではない旨)。mlit.go.jp(PDF)
  3. 国土交通省「居住支援協議会の概要」(2025年6月30日時点で163協議会が設立=全都道府県および125市区町村/法第81条第1項/構成員・活動内容/令和6年法律第43号により設置が努力義務)。mlit.go.jp(PDF)/制度ページはこちら
  4. 国土交通省「家賃債務保証業者登録制度」(告示公布2017年10月2日。任意の登録制度/誇大広告の禁止・重要事項の説明・書面交付・帳簿の備付け等の業務ルール)。mlit.go.jp
  5. 国土交通省「認定家賃債務保証業者制度」および「認定家賃債務保証業者制度の概要」(登録家賃債務保証業者または居住支援法人から国土交通大臣が認定/法第七章 第72条〜第80条/認定の基準/JHFの家賃債務保証保険:補填率7割〜9割・対象範囲は未払家賃と原状回復費用・4区分の保険料率/指導監督)。mlit.go.jp/概要資料はPDF
  6. 総務省統計局「人口推計(2025年10月1日現在・令和2年国勢調査を基準とする確定値)」高齢化率29.4%(65歳以上人口3,622万人)。同値は内閣府『令和8年版高齢社会白書(全体版)』第1章第1節1 表1-1-1 に掲載。cao.go.jp(PDF)

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