高齢の入居者の契約更新でオーナーがやり直せること——法定更新・緊急連絡先・見守りの追加

長く住んでいる高齢の入居者の更新時期が近づいてくる。滞納があるわけでも、近隣とのもめごとがあるわけでもない。それでも「このまま同じ条件で更新して大丈夫だろうか」と引っかかる——この記事は、その引っかかりを分解するために書いています。

引っかかりの中身はたいてい情報の古さです。契約したのが10年前、20年前だとすると、契約書に書かれた緊急連絡先の相手はすでに転居しているかもしれず、当時は元気だった連絡先の方が入居者本人より高齢になっていることもあります。連帯保証人が亡くなっている場合もあります。契約書は当時のまま止まっているのに、入居者の状況だけが進んでいるという状態です。

更新は、その状態を整え直せる数少ない平常時の接点です。ただし、更新だからといってオーナーが一方的に条件を足せるわけではありません。以下では借地借家法の条文と国土交通省の公表資料にあたって、更新で足せるもの/足せないもの/そもそも更新の手続きを踏まないとどうなるかを分けて示します。個別の契約の効力については、最終的に弁護士等への確認が要ります。

更新の通知を出さないとどうなるのか——法定更新と「期間の定めがない契約」

まず、何もしなかった場合に何が起きるかから確認します。借地借家法第26条第1項は、期間の定めがある建物賃貸借について、こう定めています[1]

建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。

ここで見落とされやすいのがただし書きです。通知をしないまま期間が満了すると、契約は同じ条件で続く一方、期間だけは「定めがないもの」になります[1]。これがいわゆる法定更新です。

期間の定めがなくなると、次の更新時期というものが来なくなります。2年ごとに書類を取り交わす機会そのものが消えるということです。高齢の入居者の情報を定期的に見直したいと考えているなら、この点は実務上の分かれ目になります。連絡先を確認する口実が制度的に用意されるか、こちらから改めて持ちかけるしかなくなるか、という差です。

なお同条第2項は、更新しない旨の通知を出していた場合でも、期間満了後に入居者が使用を継続し、貸主が遅滞なく異議を述べなかったときは同じ扱いになると定めています[1]通知を出しただけで放置すると、結果は通知を出さなかった場合と変わりません。

「条件を変更しなければ更新をしない」という通知はどこまで使えるのか

第26条第1項には「条件を変更しなければ更新をしない旨の通知」という選択肢が書かれています。ここだけ読むと、更新の機会に条件を付け替えられそうに見えます。しかし第28条が、この通知に条件を課しています[1]

建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

つまり貸主側からの「条件を変更しなければ更新をしない」という通知には、更新拒絶と同じ正当事由が要ります[1]。「緊急連絡先を追加してくれないなら更新しない」という形で条件を突きつけることは、この枠組みの中では想定されていません。正当事由がどう判断されるかは高齢の入居者に退去してもらうことはできるのか——更新拒絶・立退きの正当事由を借地借家法から読むで扱っています。

さらに第30条は「この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする」と定めています[1]。借主に不利な取り決めは、契約書に書いても効力を持たないということです。

ここから引ける線は単純です。更新でできるのは「提案して合意してもらうこと」であって、「条件にすること」ではありません。この記事の以下の各項目は、すべてこの前提の上にあります。

緊急連絡先は契約更新のときに書き換えられるのか

緊急連絡先の情報を新しくすることは、入居者の協力が得られれば更新の場で行えます。契約の条件を変えるのではなく、届け出られている情報を現状に合わせる作業だからです。実務では、更新の書類一式に連絡先の確認欄を同封し、変わっていれば書き直してもらう形が取りやすいところです。

確認したいのは連絡先の番号だけではありません。その方が今も連絡を受けられる状態にあるかです。入居者が80代であれば、入居時に書かれた兄弟姉妹も同年代である可能性があります。子が記載されていても、遠方に転居していれば緊急時に駆けつけられるとは限りません。緊急連絡先は「書いてあるかどうか」ではなく「機能するかどうか」で見るものだ、という点は入口の審査でも同じで、高齢者の入居審査:何を見て、どこまで確認するのかで触れています。

身元保証会社を使っている場合は、契約が続いているかどうかも確認の対象になります。身元保証と賃貸の連帯保証・緊急連絡先は別のもので、その違いは高齢者の賃貸入居と身元保証会社:連帯保証人との違いと、国のガイドラインで確認する6項目で整理しています。

ただし、ここで一度立ち止まる価値があります。緊急連絡先を最新にしても、それは「異変が起きたあとに誰へ連絡するか」が新しくなっただけです。異変が起きたこと自体を誰かが知る経路は、連絡先の更新では増えません。実際に連絡が取れなくなったときに何ができるかは入居者と連絡が取れない:部屋に入れるのか、警察はいつ呼ぶのかで扱っていますが、そこに至る前に気づく仕組みは別に用意することになります。

日々の安否を管理側が把握する経路をどう作るかについては、賃貸物件に見守りを付ける方法をR65見守りで確認すると、機器・通知先・費用の組み合わせが具体的に見えます。

更新のタイミングで見守りを付けることはできるのか

見守りの導入を更新に合わせて持ちかけること自体は、提案として自然です。更新は入居者と書面をやり取りする機会であり、説明の場が確保できるためです。同意書を交わす必要がある取り組みは、この機会に載せると進めやすくなります。

一方で、前の項目で見たとおり「見守りを入れることを更新の条件にする」ことはできません。入居者が断ったことを理由に更新を拒絶するには第28条の正当事由が要り、見守りを断ったという事実がそれに当たると考えるのは無理があります[1]提案として整え、断られたらそこで止まるという設計にしておくのが実務上の落としどころです。

居室内にセンサーを置く場合は、入居者本人の同意をどう取り、契約書と同意書に何を書くかという実務が別にあります。費用の負担者、退去時の機器の扱い、通知先を誰にするかまで含めて、賃貸に見守りを入れるときの同意の取り方:契約書と同意書に書く項目に整理してあります。費用を誰が持つかの考え方は高齢入居者の見守りの費用は誰が負担するのか:自治体の緊急通報システムの要件と、使えない場合の選択肢で扱っています。

提案の材料をそろえる段階であれば、入居者に説明できる形の見守りの仕組みをR65見守りで見るところから始めるのが早道です。更新の書面に添える説明資料として使える粒度かどうかを、先に確かめておくと話が進みます。

残置物の特約を更新のときに追加できるのか——国土交通省Q&Aの答え

単身の高齢入居者が亡くなったあとの契約解除と残置物の処理については、国土交通省と法務省が「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定しています[3]。入居者(委任者)と受任者のあいだで解除関係事務委任契約・残置物関係事務委託契約を結んでおく仕組みで、内容は残置物はどう片付けるのか——「誰を受任者にできるか」から読む国交省モデル契約条項の実務で扱っています。

問題は、これが入居時に備えておく仕組みとして設計されている点です。すでに入居している高齢者について、更新の機会に後から入れられるのか。国土交通省が公表しているQ&A(令和7年10月版)は、この点に直接答えています[4]

なお、賃貸借契約の更新に当たって上記特約条項を追加しようとする場合には、入居者との間で当該条項の追加について合意をした上で更新をする必要があること等にもご留意ください。

同じQ&Aは、すでに入居中の方についても、単身高齢者であり個人の保証人もおらず推定相続人の存否も不明といった残置物リスクが高い場面において、入居者との合意の上でモデル契約条項を利用すること自体は否定されないとしています[4]。あわせて、委任契約に関連する条項を賃貸借契約の特約として盛り込む場合は、すでに締結されている賃貸借契約の変更が必要になる点にも注意を促しています[4]

後から入れられる。ただし合意による。ここでも結論は同じ形になります。

残置物の受任者は更新のときに確認する必要があるか

すでにモデル契約条項を使っている物件では、確認の対象がもう一つ増えます。受任者が今も存命で、連絡が取れる状態にあるかどうかです。

国土交通省のQ&Aは、受任者についてまずは賃借人の推定相続人のいずれかとするのが望ましいとされていることを前提に、推定相続人の所在が明らかでないなど推定相続人を受任者とすることが困難な場合には、居住支援法人や管理業者などの第三者を受任者とすることを想定していると説明しています[4]。家賃債務保証業者を受任者にできないかという問いには、最終的には個別の事案において判断されるとしたうえで、賃貸借契約の終了が遅くなれば保証の対象である家賃債務の額が増えるなど委任者と利害が対立すること、親族など一定の人的関係がある者が行うことが多い個人保証と異なり賃借人との人的関係も存在しないと考えられることを挙げ、家賃債務保証業者を受任者とした場合は公序良俗に反して無効と判断される可能性もあるとしています[4]。受任者の欄に保証会社の名前が入っている契約は、更新の機会に見直しの対象になります。

受任者に推定相続人を選んでいる場合、その方も年月とともに高齢になります。入居者が90代であれば、受任者である子も60代70代です。受任者が先に亡くなっていれば、備えたはずの仕組みが動きません。更新は、この点を静かに確かめられる機会にあたります。

同じQ&Aには、指定残置物についても、後日新たに指定残置物が生じた場合は委任者において適宜指定の追加等を更新していくことが想定され、受任者から委任者に定期的に指定残置物リスト等の状況確認や更新を促す方法も考えられると書かれています[4]。仕組みを入れて終わりではなく、定期的に見直す前提で設計されているということです。

更新に合わせて家賃を上げることはできるのか

建物の借賃については、借地借家法第32条第1項が増減請求権を定めています。租税その他の負担の増減、土地・建物の価額の上昇や低下その他の経済事情の変動、または近傍同種の建物の借賃との比較によって不相当となったときに、契約の条件にかかわらず、当事者は将来に向かって増減を請求できるという規定です[1]。一定の期間増額しない旨の特約がある場合は、その定めに従います[1]

ここでも一方的に決められるわけではありません。同条第2項は、増額について協議が調わないときは、請求を受けた側は増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額を支払えば足りるとしています[1]。裁判が確定して既払額に不足があれば、年1割の利息を付して支払うことになります[1]

高齢の入居者について実務上考えたいのは、増額の可否よりも年金収入で払い続けられる水準にあるかのほうです。滞納が起きてから対応するより、更新時点で支払いの余力を把握しておくほうが打ち手を選べます。高齢者の滞納が実際どの程度発生しているかは高齢者の家賃滞納は本当に多いのか——公表データで確かめるで数字を見ています。

更新の前に確認しておきたい6項目

ここまでの内容を、更新の書類を用意する段階で見る順に並べ直します。いずれも入居者の協力を得て行うもので、応じてもらえなかったことを理由に更新を拒絶できる性質のものではありません。

  1. 期間の定めが残っているか。過去に法定更新になっていれば、期間の定めのない契約になっています[1]。次の機会は自動的には来ません
  2. 緊急連絡先の相手は今も連絡を受けられるか。番号の正しさではなく、その方の年齢・居住地・健康状態まで含めて見る
  3. 連帯保証人・保証会社の契約は続いているか。連帯保証人が亡くなっている場合、保証は当然には引き継がれません
  4. 残置物の受任者は存命で連絡が取れるか。受任者を推定相続人にしている場合はとくに[4]
  5. 日々の安否を知る経路があるか。連絡先の整備は事後の連絡先であって、異変に気づく仕組みではありません
  6. 支払いの水準は無理のない範囲か。増減の請求は制度上可能ですが、協議が調わなければ額は裁判で決まります[1]

賃貸借契約そのもののひな形としては、国土交通省が「賃貸住宅標準契約書 平成30年3月版」(家賃債務保証業者型・連帯保証人型)を公表しています[2]。使用が法令で義務づけられているものではありませんが、条項の並びを確認する材料になります。同ページには、令和6年12月に「作成にあたっての注意点」および「解説コメント」に、死後事務委任契約の締結を前提とした賃貸借契約を締結する際の特約項目の記載例を追加したとの告知が載っています[2]。単身高齢者の契約を扱う場合、更新の書面を組み直すときに参照できる箇所です。

まとめ:更新でできること、できないこと

整理します。

  1. 通知をしないまま満了すると法定更新になり、期間の定めが消える(借地借家法第26条第1項ただし書き)[1]。定期的な見直しの機会そのものが無くなる
  2. 通知を出しても、満了後の使用継続に遅滞なく異議を述べなければ同じ扱いになる(同条第2項)[1]
  3. 貸主からの「条件を変更しなければ更新をしない」通知には正当事由が要る(第28条)[1]。条件の付け替えの手段としては使えない
  4. 借主に不利な特約は無効(第30条)[1]。書面に書けば通るというものではない
  5. 残置物の特約を更新時に追加することはできる。ただし入居者との合意が前提(国土交通省Q&A・令和7年10月版)[4]
  6. 受任者は推定相続人が望ましいとされ、困難な場合は居住支援法人や管理業者などの第三者が想定されている[4]。時間の経過で受任者側の事情も変わる
  7. 借賃の増減は請求できるが、協議が調わなければ額は裁判で決まる(第32条)[1]

更新でオーナーができるのは、条件を突きつけることではなく、古くなった前提を入居者と一緒に確かめ直すことです。緊急連絡先を新しくし、保証と受任者が生きているかを見て、必要なら見守りを提案する。応じてもらえた範囲が、次の2年間の備えになります。そして連絡先をどれだけ整えても、異変が起きたことを知る経路だけは、賃貸借の書面の外に用意することになります。その一点を更新の議題に載せられるかどうかが、実務では大きな差になります。

出典
  1. 第26条第1項(期間満了の1年前から6月前までに更新をしない旨または条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは従前の契約と同一の条件で更新したものとみなし、ただしその期間は定めがないものとすること)、第26条第2項(通知をした場合でも期間満了後に賃借人が使用を継続し賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときは同様とすること)、第28条(賃貸人による第26条第1項の通知・解約の申入れには正当の事由が必要であり、その考慮要素)、第30条(この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは無効とすること)、第32条第1項・第2項(借賃増減請求権、増額について協議が調わないときは裁判が確定するまで相当と認める額の支払で足り、不足額には年1割の利息を付すこと):総務省行政管理局「e-Gov法令検索 借地借家法(平成三年法律第九十号)」。逐語引用は同ページ掲載の条文による。laws.e-gov.go.jp(2026年9月10日確認)
  2. 「賃貸住宅標準契約書 平成30年3月版・家賃債務保証業者型」および「同・連帯保証人型」が公表されていること、標準契約書の使用は法令で義務づけられているものではないこと、および「『賃貸住宅標準契約書』の<作成にあたっての注意点>および<解説コメント>に、死後事務委任契約の締結を前提とした賃貸借契約を締結する際の特約項目の記載例を追加しました。(令和6年12月)」との告知:国土交通省「『賃貸住宅標準契約書』について」。mlit.go.jp(2026年9月10日確認)
  3. 国土交通省および法務省において、賃借人と受任者との間で締結する賃貸借契約の解除および残置物の処理を内容とした死後事務委任契約等に係る「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定したこと、モデル契約条項が賃貸借契約の解除に関する委任契約と残置物の処理に関する委任契約とを別々のものとしていること:国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」。mlit.go.jp(2026年9月10日確認)
  4. A3(すでに入居中の方が単身高齢者であり個人の保証人もおらず推定相続人の存否も不明といった残置物リスクが高い場面において、入居者との合意の上でモデル契約条項を利用すること自体は否定されないこと/委任契約に関連する条項を賃貸借契約に特約条項として盛り込む場合はすでに締結されている賃貸借契約の変更が必要となること/賃貸借契約の更新に当たって特約条項を追加しようとする場合には入居者との間で当該条項の追加について合意をした上で更新をする必要があること・逐語引用は本文のとおり)、A4(受任者はまずは賃借人の推定相続人のいずれかとするのが望ましいとされていること、推定相続人を受任者とすることが困難な場合には居住支援法人や管理業者などの第三者を受任者とすることを想定していること)、A5(最終的には個別の事案において判断されるとしつつ、委任者との利害対立と人的関係の不存在を理由に、家賃債務保証業者を受任者とした場合は公序良俗に反して無効と判断される可能性もあるとしていること)、A11(後日新たに指定残置物が生じた場合の指定の追加等の更新、受任者から委任者に定期的に指定残置物リスト等の状況確認や更新を促す方法も考えられること):国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項に係るQ&A」(資料表記「R7.10月」=令和7年10月)。mlit.go.jp(PDF)(2026年9月10日確認)

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