高齢入居者の見守りの費用は誰が負担するのか:自治体の緊急通報システムの要件と、使えない場合の選択肢

単身の高齢者から申込みが入り、「見守りを付けてもらえるなら受けられる」という話までは進んだ。そこで止まるのが、その費用を誰が払うのかという一点です。月々の負担を入居者に求めれば申込み自体が流れかねず、貸主が持てば戸数ぶんの固定費になります。

この判断は、民間サービスの月額を比べるところからは始まりません。先に見るのは、その入居者が自治体の緊急通報システムに乗れるかどうかです。乗れるなら費用はほぼ公費で賄われ、貸主も入居者も負担しません。乗れない場合にはじめて、誰がいくら払うかという話になります。

この記事では、実際の自治体の案内から対象要件と自己負担額を引いたうえで、公費に乗れない人がどこで生まれるのかと、その場合の手当て、契約への書き方までを順に整理します。なお制度は自治体ごとに異なるため、以下は仕組みの読み方であり、個別の可否は物件所在地の窓口の判断によります。

高齢入居者の見守りの費用は、貸主と入居者のどちらが負担するのか

実務で見かける負担のかたちは、大きく次の3つです。

  • 公費で賄う——自治体の緊急通報システムを入居者本人が申請する。貸主・入居者ともに月額の負担はほぼ生じない
  • 入居者が負担する——民間の見守りサービスを本人または家族が契約する。賃貸借契約とは別の契約になる
  • 貸主が負担する——建物側の設備・サービスとして導入し、賃料や共益費に織り込む

順番が大事です。3つを並べて比べるのではなく、上から順に「使えるか」を確認していきます。公費の枠に乗る人にまで貸主が費用を出す必要はなく、逆に、乗れない人を公費前提で放置すると見守りが付かないまま入居が始まります。

そして、この「乗れるかどうか」は年齢だけでは決まりません。次に見るとおり、世帯の状況・健康状態・課税の有無・近隣に協力者がいるかといった条件が重なっています。

自治体の緊急通報システムは誰が使えるのか——年齢・世帯・協力員の要件

高齢者向けの緊急通報システムは、多くの自治体が高齢者福祉の事業として実施しています。地域包括ケアシステムは「保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要です」と説明されており[1]だからこそ要件も費用も自治体ごとに違います。全国一律の制度ではない、というのが出発点です。

実際の案内を3つ並べます。

自治体対象者の要件
新宿区[2] 65歳以上で、①一人暮らしまたは65歳以上のみの世帯、②慢性疾患があるなど日常生活で常時注意を要する方、③シルバーピア等に入居していない方——のすべてを満たす方
大阪市[3] 65歳以上でひとり暮らしの方、高齢者のみの世帯、1日のうち8時間程度1人になる方(ほかに身体障がいの要件あり)
千葉市[4] ①在宅のおおむね65歳以上でひとり暮らしの方、②協力員を少なくとも1名登録できる方——の両方に該当する方

並べると、要件の性質が3種類あることが分かります。

  • 世帯の要件——ひとり暮らしか、高齢者のみの世帯か。大阪市は「1日のうち8時間程度1人になる方」も対象にしており、同居家族がいても日中独居なら入り得ます[3]
  • 健康状態の要件——新宿区は「慢性疾患があるなど日常生活で常時注意を要する方」を条件に置いています[2]。元気な高齢者は対象外になり得ます
  • 近隣の協力者の要件——千葉市は協力員を1名以上登録できることを条件にしています[4]

3つ目が、賃貸の現場でいちばん効いてきます。千葉市の協力員は「利用者宅へ駆けつけを行う必要はありません」とされ、状況報告の連絡を受ける役割ですが、それでも本制度の趣旨を理解し、協力員になることの承諾を得てから利用申請書を提出する必要があります[4]。転居してきたばかりの単身高齢者に、承諾してくれる近所の人がいるとは限りません。

なお千葉市では、緊急通報装置の設置時に自宅の鍵を1本預かる運用になっています[4]。合鍵の所在は、連絡が取れなくなったときの動き方にも関わります。その場面の判断の順序は入居者と連絡が取れない:部屋に入れるのか、警察はいつ呼ぶのかにまとめています。入居者からキーボックスの設置や合鍵の預け先を相談されたときの承諾の範囲と鍵の本数の管理は高齢の入居者からキーボックスを付けたいと言われたら——ヘルパーの出入りと合鍵、オーナーが承諾前に決めることで整理しました。

緊急通報システムの費用はいくらか——無料の自治体と月額のある自治体

費用のかたちも自治体で分かれます。同じ3市区の案内から拾います。

自治体利用者の負担
新宿区[2] 令和8年度の新規設置で設置時2,700円(開閉センサーなし)/3,100円(開閉センサーあり)。住民税非課税の方、生活保護または中国残留邦人等支援給付を受けている方は自己負担が生じない
大阪市[3] 基本サービス利用料は前年所得税課税世帯が月額858円から940円に変更、前年所得税非課税世帯は無料。オプションは所得にかかわらず有料(駆けつけ対応は月額330円と1回7,700円など)
千葉市[4] 毎月の利用料金・機器設置に伴う料金は無料。ただし電気料金(約80円/月)や電話料金は利用者負担(定期通信 約40〜50円/月、緊急ボタン等使用時 約10円/回、設置当日の通信試験 約200円)

読み取れることは2つあります。

ひとつは、公費型に乗れた場合の負担は、民間サービスの月額とは桁が違うということ。大阪市の課税世帯でも月額940円[3]、千葉市に至っては通信にかかる実費だけです[4]。ここに乗れるなら、貸主が費用を持つ議論そのものが不要になります。

もうひとつは、費用が課税状況で切り替わること。新宿区も大阪市も、非課税世帯の負担をゼロにしています[2][3]。年金収入のみの単身高齢者はここに入ることが多く、審査で収入を心配していた層ほど、見守りの費用では有利になるという関係になります。

申込みの窓口は本人側です。新宿区は高齢者総合相談センター・高齢者支援課・特別出張所[2]、大阪市は各区保健福祉センター保健福祉課[3]、千葉市は区の保健福祉センター高齢障害支援課[4]と案内されています。管理会社ができるのは、申込みの存在を伝えて窓口へつなぐところまでです。高齢者の相談窓口である地域包括支援センターは全国で5,487か所が設置されています(令和7年4月末現在)[1]

公費の見守りに乗れないのはどんな人か

ここが記事の中心です。要件を裏返すと、次のような入居者は公費型から外れます。

  • 協力員を立てられない人——千葉市型の要件では、近隣に承諾してくれる人がいないと申請自体が進みません[4]
  • 健康状態の条件に当たらない人——新宿区型では「日常生活で常時注意を要する」ことが条件で、元気な単身高齢者は外れ得ます[2]
  • 同居している家族がいる人——大阪市は日中独居も対象にしていますが[3]、そこまで広げていない自治体では、同居者がいる時点で対象外になります
  • そもそも事業を実施していない、または枠が限られている自治体の物件——実施は市町村の裁量です[1]

賃貸の申込みで詰まりやすいのは、1つ目です。身寄りがなく、転居直後で近隣との関係がない——という状態は、緊急連絡先が立てられない状態とほぼ重なります。つまり、審査で緊急連絡先がネックになった人ほど、公費の見守りからも外れやすい。ここに構造的なねじれがあります。

この層に必要なのは、近隣の協力者を前提にしない見守りです。センサーや通信で異変を検知し、通知先を事業者側が担うタイプであれば、協力員の有無に関係なく成立します。賃貸オーナー・管理会社向けにこの形をとっているものとしては協力員を立てられない入居者でも使える見守りの仕組みを見るという選択肢があります。

サービスのタイプごとの違い——センサー型・通報ボタン型・訪問型などをどう見分けるかは、見守りサービス比較の視点:高齢入居者の安否確認をどう選ぶに整理しています。

居住サポート住宅の認定を取ると、見守りの費用はどう変わるのか

もうひとつ、公費が関わる経路があります。2025年10月1日に施行された改正住宅セーフティネット法で創設された居住サポート住宅です。

国土交通省は、居住サポート住宅を「居住支援法人等が大家と連携し、[1]日常の安否確認、[2]訪問等による見守り、[3]生活・心身の状況が不安定化したときの福祉サービスへのつなぎを行う住宅」と説明しています[5]見守りが住宅の認定要件そのものに組み込まれているのがこの制度の特徴です。

費用面では、次の支援措置が示されています[5]

  • 改修費補助——セーフティネット専用住宅または居住サポート住宅の改修費に対する補助。ただし受給後は10年間、入居者を住宅確保要配慮者に限定して管理する必要があります
  • 家賃と家賃債務保証料等の低廉化補助——低額所得者の入居時に、地方公共団体と国が協力して補助を行うもの

ここで注意したいのは、10年間の限定が付くことです。1戸の見守り費用を軽くするために取る認定ではありません。空室が続いていて、住宅確保要配慮者を継続的に受け入れる方針が固まっている物件に向く選択です。認定の要件と申請の流れは「居住サポート住宅」の認定を受けるには——登録住宅との違いと申請の流れで扱っています。

認定を取らずに個別対応する場合との比較は、戸数と方針で決まります。1〜2戸の話であれば、次の項の契約設計のほうが現実的です。

見守りの費用を賃貸借契約にどう書くか

貸主または管理会社が費用を持つと決めた場合、決めておく項目は次の4つです。

  • 賃料・共益費に含めるのか、別立てにするのか——賃料に織り込むと募集条件の見え方が変わり、別立てにすると入居者から「何の費用か」を問われる場面が出てきます
  • 契約の当事者は誰か——貸主が事業者と契約して入居者に提供するのか、入居者本人が契約するのを貸主が費用補助するのか。異変を検知したときの通知先が誰になるかが、ここで決まります
  • 退去したらどうなるのか——機器の撤去、次の入居者への引き継ぎ、途中解約の扱い
  • 入居者の同意をどう取るか——室内の状況を検知する仕組みである以上、何をどこまで取得し、誰が見るのかを書面で示して同意を得ます

2つ目を曖昧にしたまま導入するのがいちばん危険です。通知が入居者本人の家族にだけ飛ぶ設定になっていれば、管理会社は異変を知らないまま日数が過ぎます。逆に管理会社が第一通知先になるなら、夜間・休日に誰が受けるのかまで決めておく必要があります。導入前に通知先と対応フローの設計を相談するところまで含めて詰めておくと、運用が始まってからの取り決め直しを避けられます。

契約時に決めておく項目の全体像は高齢者の賃貸契約:残置物・保証・家財の実務チェックリストにまとめています。

同意をどう取るか、賃貸借契約書と同意書にそれぞれ何を書くかは賃貸に見守りを入れるときの同意の取り方:契約書と同意書に書く項目で個人情報保護法の枠組みから整理しています。

見守りを付ければ孤独死は防げるのか

費用を出す側として、効果をどう見積もるかも押さえておきます。

日本少額短期保険協会 孤独死対策委員会の「第10回 孤独死現状レポート」(2025年12月公表/データ収集期間2015年4月〜2025年3月、n=12,105)では、発見までの平均日数は19日、死亡時の平均年齢は63.6歳と報告されています[6]

見守りが変えるのは、亡くなるかどうかではなく、この19日という数字のほうです。異変の検知が早ければ、救命につながる場合もあれば、間に合わなくても原状回復の範囲は大きく変わります。費用対効果を説明するときに、「孤独死を防ぐ」ではなく「発見までの日数を縮める」と置いたほうが、実態にも合いますし、オーナーへの説明としても誤解が生じません。

発見が遅れた場合に生じる費用の実際と、それに備える保険の考え方は孤独死保険とは?補償の範囲・オーナーへの説明ポイントで扱っています。

まとめ:費用の話は「誰が乗れないか」から始める

順序を整理します。

  1. 物件所在地の自治体の緊急通報システムの要件を確認する——年齢・世帯・健康状態・協力員のどれを条件にしているかは自治体ごとに違います[1][2][3][4]
  2. その入居者が要件に当たるかを見る——当たるなら、窓口を案内するところまでが管理会社の役割。負担は月額数百円か実費程度に収まります[3][4]
  3. 外れる理由を特定する——協力員か、健康状態か、同居者か。理由によって代わりの手当てが変わります
  4. 外れた場合にだけ、誰がいくら払うかを決める——賃料への織り込み方、契約の当事者、通知先、退去時の扱いを先に書面化します
  5. 戸数が多く方針が固まっているなら、居住サポート住宅の認定を検討する——ただし補助の受給後は10年間の限定が付きます[5]

「見守りの費用は誰が払うのか」という問いは、実は「この入居者は公費に乗れるのか」という問いです。乗れる人にまで貸主が負担する必要はなく、乗れない人を放置すると見守りが付かないまま入居が始まります。申込みの段階で要件を1つずつ当てておくことが、結果としていちばん費用を抑えます。

出典
  1. 「地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要です。」、地域包括支援センターが「地域の高齢者の総合相談、権利擁護や地域の支援体制づくり、介護予防の必要な援助などを行い、高齢者の保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的」とする市町村設置の機関であること、全国5,487か所(令和7年4月末現在):厚生労働省「地域包括ケアシステム」。mhlw.go.jp(2026年9月3日確認)
  2. 対象者「65歳以上で、以下の要件をすべて満たす方」(①一人暮らしまたは65歳以上のみの世帯 ②慢性疾患があるなど日常生活で常時注意を要する方 ③シルバーピア等に入居していない方)、令和8年度新規設置の自己負担「設置時 2,700円(開閉センサーなし)」「設置時 3,100円(開閉センサーあり)」、「住民税非課税の方、生活保護または中国残留邦人等支援給付を受けている方は、自己負担が生じません」、申込窓口(各高齢者総合相談センター/高齢者支援課/各特別出張所):新宿区「高齢者緊急通報システム」。city.shinjuku.lg.jp(2026年9月3日確認)
  3. 対象者「65歳以上でひとり暮らしの方、高齢者のみの世帯、1日のうち8時間程度1人になる方」、基本サービス利用料が前年所得税課税世帯で「月額858円から940円に変更」・前年所得税非課税世帯は「無料」、オプションサービスは「所得にかかわらず有料」(駆けつけ対応は月額330円と1回7,700円など)、申込窓口が各区保健福祉センター保健福祉課であること:大阪市「緊急通報システム事業」。city.osaka.lg.jp(2026年9月3日確認)
  4. 対象者「1.在宅のおおむね65歳以上で、ひとり暮らしの方」「2.協力員を少なくとも1名登録できる方」の全該当、「毎月の緊急通報システム利用料金や機器設置に伴う料金は、無料です。」、電気料金(約80円/月)や電話料金が利用者負担であること(定期通信 約40〜50円/月/緊急ボタン等使用時 約10円/回/設置当日の通信試験 約200円)、協力員は「利用者宅へ駆けつけを行う必要はありません。」かつ「本制度の趣旨を理解し、協力員になることの承諾を得てから利用申請書を提出してください。」、「緊急通報装置の設置時にご自宅の鍵(1本)を預かります。」、申込窓口が区の保健福祉センター高齢障害支援課であること:千葉市「高齢者緊急通報システム事業のご案内」。city.chiba.jp(2026年9月3日確認)
  5. 2025年10月1日施行の改正住宅セーフティネット法、居住サポート住宅が「居住支援法人等が大家と連携し、[1]日常の安否確認、[2]訪問等による見守り、[3]生活・心身の状況が不安定化したときの福祉サービスへのつなぎを行う住宅」であること、改修費補助の受給後は「10年間は入居者を住宅確保要配慮者に限定」して管理する必要があること、家賃と家賃債務保証料等の低廉化について地方公共団体と国が協力して補助を行うこと:国土交通省「住宅セーフティネット制度について」。mlit.go.jp(2026年9月3日確認)
  6. 発見までの平均日数19日、死亡時の平均年齢63.6歳、調査対象数12,105件:一般社団法人 日本少額短期保険協会 孤独死対策委員会「第10回 孤独死現状レポート」(2025年12月/データ収集期間2015年4月〜2025年3月)。shougakutanki.jp(PDF)(2026年9月3日確認)

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