単身高齢者の入居申込みを前にして、担当者の頭をよぎるのはたいてい同じ場面です。「もし部屋で亡くなったら、荷物を誰が、いつ、どうやって片付けるのか」。この問いに答えが用意できないまま「オーナーに確認します」と持ち帰ると、そのまま返事をしないで終わってしまう——というのが、断りが生まれる典型的な経路です。
この場面については、国土交通省と法務省が令和3年(2021年)6月に「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定しています[3]。制度としての答えはすでに5年前から存在しているわけですが、現場で止まるのは条項の中身ではありません。「では、誰を受任者にすればいいのか」——ここで詰まります。自社(管理会社)でよいのか、オーナーではだめなのか、保証会社に頼めないのか。この記事は、その一点を一次資料で確定させることを目的にします。
本サイトではこれまで、孤独死の原状回復費用は誰が負担する?特約と実務の整理で亡くなった後の費用の負担者を、高齢者の賃貸契約:残置物・保証・家財の実務チェックリストで契約前に確認する項目全体を扱ってきました。本記事はその中の「残置物」を、誰と誰が何を締結し、いつから片付けてよいのかという手続きの側から分解します。
断る理由の正体は「片付けられないこと」ではなく「片付けてよい人がいないこと」
モデル契約条項の前注は、この問題の構造を短く説明しています。賃貸借契約の継続中に賃借人が死亡した場合、相続人の有無や所在が分からなかったり、相続人と連絡が付かなかったりすると、賃貸借契約を終了させることも、物件内に残された動産(残置物)を処理することも困難になる——これを「残置物リスク」と呼び、賃貸用建物の所有者が単身高齢者への賃貸を躊躇する主な理由としています[1]。
ここで注意したいのは、困りごとの中身が「物理的に片付けられない」ではないことです。荷物を運び出す業者はいくらでも手配できます。できないのは、その荷物を処分してよいと決められる人が誰もいないという状態のほうです。残置物の所有権は死亡と同時に相続人へ移るため、相続人の意思を確認できない限り、管理会社もオーナーも手を出せません。片付けが止まっている間も部屋は貸せませんから、空室の期間だけが伸びていきます。相続人が見つかっても全員が相続放棄した場合に何が起きるかは、高齢の入居者が亡くなり相続人が全員相続放棄したら——賃貸借契約・家賃・残置物をオーナーはどう扱うかで扱っています。
モデル契約条項は、この「決められる人」を入居前にあらかじめ決めておくための道具です。前注はその目的を、賃借人が死亡した場合に残置物を円滑に処理できるようにすることで残置物リスクを軽減し、賃貸用建物の所有者の不安感を払拭すること、と明示しています[1]。断る理由を消すのは、入居後の努力ではなく、契約前のこの一手です。
3つのまとまりでできている——誰と誰が何を結ぶのか
モデル契約条項は1本の契約書ではありません。前注によれば3つのまとまりからなります[1]。
- 第1のまとまり=解除関係事務委任契約。賃借人が賃貸借契約の存続中に死亡した場合に、賃貸借契約を終了させるための代理権を受任者に授与する委任契約です[1]。
- 第2のまとまり=残置物関係事務委託契約。賃貸借契約の終了後に、残置物を物件から搬出して廃棄する等の事務を委託する準委任契約です[1]。
- 第3のまとまり=賃貸借契約に設ける関連条項。上記2つの(準)委任契約に関連する条項を賃貸借契約側に置くもので、これは賃貸借契約の一部であるため賃貸人と賃借人との間で締結されます[1]。
締結の当事者が入れ替わる点が、実務でもっとも誤解されるところです。第1・第2の当事者は「賃借人と受任者」であって、賃貸人は当事者ではありません。オーナーや管理会社が「うちが結ぶ契約」だと思って読み始めると、最初の一歩から噛み合わなくなります。なお、解除関係事務委任契約と残置物関係事務委託契約を同一の受任者との間で締結する場合には、その形式を1通の契約書とすることも差し支えないとされています[1]。国土交通省のページでは、この統合版を含む契約書式がPDFとWordの両方で公開されています[4]。
賃貸人が蚊帳の外かというと、そうでもありません。第3のまとまりには、賃貸人側の義務が置かれています。賃貸人は、賃借人が死亡したことを知ったときは、速やかに、解除関係事務委任契約の受任者に対して、その旨を書面又は電磁的記録により通知しなければならないとする条項です[1]。誰が受任者なのかを賃貸人が把握できるよう、賃借人側にも通知義務が設けられています[1]。つまり実務運用としては、賃借人が契約締結の事実と受任者の氏名・名称・連絡先を賃貸人に伝え、賃貸人がそれを確認してから賃貸借契約を締結するという順序が想定されています[1]。
受任者に誰を選べるか——賃貸人は避けるべき、保証会社は無効の可能性
ここが本題です。モデル契約条項は受任者の候補を挙げたうえで、避けるべき相手を名指しで書いています。
第一に、まずは推定相続人。 解除関係事務委任契約に基づく代理権の行使は相続人の利害に影響するため、受任者はまずは賃借人の推定相続人のいずれかとするのが望ましいとされています[1]。そのうえで、推定相続人の所在が明らかでない、又は推定相続人に受任する意思がないなど推定相続人を受任者とすることが困難な場合には、居住支援法人や居住支援を行う社会福祉法人のような第三者を受任者とするのが望ましいと続きます[1]。残置物関係事務委託契約の側では、第三者の候補として賃貸物件を管理する管理業者も並記されています[1]。
この点で実務上ありがたいのは、Q&Aが相続人調査までは求めていないと明言していることです。推定相続人の所在が明らかでない場合など推定相続人を受任者とすることが困難な場合には、相続人調査により推定相続人の所在や有無を明らかにすることまでは求めておらず、居住支援法人や管理業者などの第三者を受任者とすることを想定している、とされています[2]。「まず親族を探し尽くさなければ次に進めない」わけではない、ということです。
第二に、賃貸人(オーナー)は避けるべき。 理由は利害の対立です。賃貸借契約の解除をめぐっては賃貸人と賃借人(の相続人)の利害が対立することもあり得るため、賃貸人に解除に関する代理権を与えることは委任者である賃借人(の相続人)の利益を害するおそれがある——したがって賃貸人を受任者とすることは避けるべきであるとされ、さらに賃貸人を受任者とする解除関係事務委任契約は、賃借人の利益を一方的に害するおそれがあり、民法第90条や消費者契約法第10条に違反して無効となる可能性があると明記されています[1]。賃貸人自身を受任者にすることを避けるべき点は、残置物関係事務委託契約でも同様とされています[1]。国土交通省の『<大家さんのための>単身入居者の受入れガイド』(令和7年10月・第5版)も、賃貸人は賃借人と利益相反の関係にあるため、受任者とすることは避けるべきと同じ整理を示しています[5]。
第三に、家賃債務保証業者も避ける。 これはQ&Aで正面から問われています。賃貸借契約の終了が遅くなれば保証の対象である家賃債務の額が増えるなど、家賃債務保証業者は委任者と利害が対立することがあり、また親族など賃借人と一定の人的関係がある者が行うことが多い個人保証の場合と異なり賃借人との人的関係も存在しないと考えられるため、家賃債務保証業者を受任者とした場合、公序良俗に反して無効と判断される可能性もある——という回答です(最終的には個別の事案において判断されるという留保付き)[2]。保証会社に一括で任せてしまう発想は、この時点で外れます。保証会社の役割分担については家賃債務保証と居住支援法人:高齢者入居を支える仕組みで別途整理しています。
そして最後に、選ぶ主体を取り違えないことです。前注は「解除関係事務委任契約の委任者は賃借人であるから、賃借人がその意思に従って受任者を選ぶべきである」と念を押しています[1]。管理会社が候補を提示するのは構いませんが、決めるのは入居者本人です。
管理業者が受任者になるときに前提になる3つのこと
実務でもっとも現実的な選択肢は、居住支援法人か管理業者です。居住支援法人の指定を受けるには——指定要件・申請の流れ・連携先の見極め方で扱ったとおり、居住支援法人は令和7年10月施行の改正住宅セーフティネット法で残置物処理が業務に加わっていますが、連携先が地域にいない場合、管理業者自身が受けることになります。その場合の条件は3つです。
1つめ、転貸人の立場にあるなら受けない。 Q&Aは、管理業者が転貸人(賃貸人)の立場にある場合においては受任者とすることは避けるべきとし、管理業者がそのような立場にない場合は、直ちに無効であるとはいえないものの、賃貸人の利益を優先することなく、委任者である賃借人(の相続人)の利益のために誠実に対応する必要があるとしています[2]。サブリース契約で借り上げている物件は、この時点で自社受任の候補から外れます。
2つめ、受任者としての義務は「入居者側の利益のために」働く義務である。 モデル契約条項の解説コメントは、管理業者が受任者であるかどうかにかかわらず受任者は受任者の義務に関する条項に基づく義務を負い、委任者(その時点では元の委任者の相続人)の利益のために委任事務を処理する必要があると述べています[1]。オーナーの代理人として動くつもりで受けると、立場が逆になります。
3つめ、管理受託が他社へ移っても自動では引き継がれない。 これは見落とすと事故になります。Q&Aは、物件管理をする管理業者が変更されたとしても変更後の管理業者に受任者としての地位が当然に承継されるわけではないと明言し、変更する場合には委任者の承諾を得て地位を移転させるか、委任者と当初の管理業者との間で契約を合意解除したうえで変更後の管理業者と新たに契約を締結する必要があるとしています[2]。管理替えのたびに、受任者の付け替えを確認する手順を社内に置いておく必要があります。
なお、契約が途中で終わった場合の受け皿も条項側に用意されています。賃貸借契約の存続中に解除関係事務委任契約又は残置物関係事務委託契約が終了した場合には、賃借人は速やかに同内容の契約を新たに締結するよう努めるという努力義務が定められ、終了時と新たな締結時には賃貸人への通知義務が課されています[1]。
いつから片付けてよいのか——「死亡から3か月」かつ「賃貸借契約の終了」
受任者が決まっても、亡くなった翌日に部屋を空にできるわけではありません。非指定残置物(廃棄の対象になる動産)については、条項が明確に時期を区切っています。
受任者は、委任者の死亡から【3か月】が経過し、かつ、賃貸借契約が終了したときに、非指定残置物(保管に適しないものを除く)を廃棄する——これが原則です[1]。ただし受任者は、換価することができる非指定残置物についてはできるだけ換価するよう努めるものとされています[1]。
3か月という数字の性格も、解説コメントに書かれています。残置物の処理に関して事後的に紛争が生ずる可能性があることから、廃棄等までに一定の期間を置くこととしたもので、この期間は仮に3か月としており、具体的な契約においては実情に応じて当事者の合意によって定めることになる。ただしその趣旨に照らし、3か月を下回る期間を定めることは避けるべきとされています[1]。短縮ありきで運用する条項ではない、という理解が要ります。
2つめの条件(賃貸借契約の終了)にも理由があります。賃貸借契約が終了していない時点では、その契約が相続人に承継される可能性が残っており、その場合には家電などの残置物が必要となる可能性がある。また賃貸借契約が終了していなければ賃料も発生するため、残置物が存置されていても賃貸人の被る損害は小さい——という説明です[1]。なお保管すべき3か月の起算点は死亡時であるため、死亡から3か月が経過していれば、賃貸借契約の終了後ただちに廃棄等に着手できます[1]。
例外は2つあります。1つは保管に適しないもので、食料品など3か月間保管できないものについては、委任者が死亡したときに直ちに廃棄できるとされています[1]。もう1つは遺言執行者がいる場合で、遺言執行者は相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有することから、一定期間が経過する前であっても遺贈の目的物の占有を取得することは可能と考えられ、遺言執行者から送付を求められた場合に期間経過前に送付することも委任の本旨に反しないとされています[2]。
搬出時の手続きも定められています。廃棄若しくは換価のため非指定残置物を物件から搬出する場合、受任者は搬出にあたって第三者(賃貸人、管理会社又は仲介業者等を含む)の立会いの下、非指定残置物の状況を確認・記録しなければならないとされ、解説コメントでは写真撮影等によることが考えられると補足されています[1]。指定残置物の搬出でも同様です[1]。ここは管理会社が立会人として関与できる部分なので、受任者が居住支援法人であっても現場での役割は残ります。
もうひとつ、期限がある点も押さえておきます。解除関係事務委任契約は受任者が委任者の死亡を知った時から6か月の経過により終了するため、この間に合意解除や賃貸人による解除権行使がされない場合には受任者の代理権が消滅します(6か月が経過するまでに解除の意思表示が相手方に到達することが必要)[1]。死亡を把握してから動き出すまでの時間が長いほど、この期限に近づきます。安否確認の仕組みを併せて用意しておく意味はここにもあり、見守りサービスの選び方は死亡の把握を早める見守りの仕組みを見るのような専用サービスも含めて見守りサービス比較の視点:高齢入居者の安否確認をどう選ぶで整理しています。
捨ててはいけない物をどう区別するか——指定残置物の指定
「勝手に捨ててしまった」を避ける仕組みが、指定残置物です。委任者(賃借人)は、①指定残置物リストに掲載する方法、②廃棄してはならない物であることを示す指標を貼付するなど、当該動産が指定残置物であることを示す適宜な措置を講ずる方法のいずれかで指定します[1]。指定にあたっては、その物を特定し、かつ送付先の氏名又は名称、住所又は所在地を明らかにしなければならないとされています[1]。
指定の対象になるのは、委任者自身が廃棄を希望しない動産と、委任者以外の者が所有する動産です[1]。条項は、物件内に委任者以外の者が所有する物が存するに至ったときや、動産を遺贈・特定財産承継遺言・死因贈与の対象としたときは、遅滞なくこれを指定残置物として指定しなければならないと定めています[1]。
ここで実務が気にするのは、入居から年単位が経つと家財が増減してリストが実態と合わなくなる点でしょう。Q&Aはこれに対し、後日新たに指定残置物が生じた場合は委任者において適宜指定の追加等を更新していくことが想定されるとし、委任者自ら都度連絡するほか、受任者から委任者に定期的にリスト等の状況確認や更新を促す方法も考えられると示しています[2]。年1回の更新確認を運用に組み込めるかどうかが、この制度が形骸化するかどうかの分かれ目になります。
指定方法も、リストとシールに限定されません。Q&Aは、当該動産が指定残置物であることを示す適宜な措置が講じられるのであれば他の方法での指定を妨げないとしたうえで、特定の金庫や容器内に保管された動産については廃棄してはならない旨をリストに掲載したり、その金庫や容器にシールを貼って中に保管しておくという運用例を挙げています[2]。一点ずつシールを貼る前提で「無理だ」と諦める必要はない、ということです。
指定されなかった高価な物の扱いにも救いがあります。条項の解説コメントは、指定残置物として指定されていなければ受任者としては廃棄して差し支えないのが原則としつつ、高価品を一つ一つ指定することは煩瑣である場合もあり、指定を失念したということも考えられるため、換価することができるものはできるだけ換価するという努力義務を受任者に課したと説明しています[1]。ただしこれは努力義務であり、できるだけ高く換価する処分先を探索するまでの義務があるわけではないとも明記されています[1]。
換価して得た金銭や室内にあった金銭は、受任者が自分のものにできるわけではありません。Q&Aは、受任者は換価によって得た金銭及び賃貸物件内にあった金銭を委任者の相続人に返還する義務を負い、相続人の存否や所在が明らかでなく受任者がこれを過失なく知ることができないときであっても、供託することによりこの義務を履行しなければならないとしています[2]。一方で、これらの金銭の合計額から委任事務処理費用等を控除することはできるとされています[2]。
使ってはいけない場面がある——無効になりうるケース
ここまで読むと万能に見えますが、モデル契約条項には適用の外側があります。前注は、この条項が賃借人による財産の管理に一定の負担を課する面があるため、残置物リスクに対する賃貸用建物の所有者の不安感が生ずるとは考えにくい場面で使用した場合、民法第90条や消費者契約法第10条に違反して無効となる可能性があると述べ、その例として個人の保証人がいる場合(保証人に残置物の処理を期待できるため、一般に残置物リスクへの不安感は生じにくい)を挙げています[1]。
つまり、「単身高齢者だから一律に締結してもらう」という運用は、条項の想定から外れます。 個人の保証人が付いている案件にまで機械的に適用すると、かえって無効リスクを抱え込むことになります。
逆に、年齢だけで対象を切る必要もありません。Q&Aは、原則として単身高齢者(60歳以上の者)が賃貸住宅を借りる場合に利用することを想定しつつ、60歳未満の単身者であっても、推定相続人が存在しない場合や推定相続人の所在が不明である場合など賃借人死亡時において残置物を処理すべき者と連絡を取ることが期待できない場合(緊急連絡先が確保できないような場合など)には、賃借人の入居支援のために活用することは否定されるものではないとしています[2]。判断の軸は年齢ではなく、死亡時に連絡が取れる相手がいるかどうかです。
入居の条件にできるかという論点も、Q&Aが扱っています。契約自由の原則により、解除関係事務委任契約及び残置物関係事務委託契約の締結を賃貸借契約締結の条件とすることは差し支えないと考えられるが、賃借人が両契約の内容を十分に理解したうえで同意していることが必要と考えられる、という回答です[2]。既に入居中の方についても、単身高齢者であり個人の保証人もおらず推定相続人の存否も不明といったような残置物リスクが高い場面において、入居者との合意のうえで利用すること自体は否定されないとされています。ただしこの場合、委任契約に関連する条項を賃貸借契約に特約条項として盛り込むには既に締結されている賃貸借契約の変更が必要となり、更新に当たって追加しようとする場合には入居者との間で追加について合意をしたうえで更新する必要がある点に留意が求められています[2]。
なお、断り文句として使われがちな「相続人を調べ切らないと動けない」も、Q&Aは限定しています。受任者に戸籍調査のような積極的な探索までを求めるものではないとしつつ、契約解除や残置物処理の事務委任契約は賃借人の相続人に承継されており受任者は相続人に対して善管注意義務等を負うと考えられるため、例えば家の中に残されている物から相続人の存在及びその住所が明らかである場合には、それをもとに連絡を取る等の対応は必要としています[2]。「探し尽くす義務はないが、目の前にある手がかりは無視できない」という水準です。
契約前に決めておく5項目
以上を、申込みの場面で使える形に畳みます。単身高齢者の申込みを受けた時点で、次の5つが埋まれば、残置物を理由に判断を保留する必要はなくなります。
- 受任者の候補——推定相続人がいるか。いなければ地域の居住支援法人が受けられるか。どちらも無理なら自社が受けられる立場か(サブリースなら不可[2])。
- 締結する契約の形——解除関係事務委任契約と残置物関係事務委託契約を、別々に結ぶか1通に統合するか[1]。
- 賃貸借契約側の特約——第3のまとまり(賃貸人・賃借人間の条項)を賃貸借契約に入れたか[1]。
- 指定残置物の指定方法——リストか、シールか、金庫・容器単位か。送付先の氏名・住所まで書けているか[1][2]。
- 更新の運用——リストの状況確認・更新を、誰が、どの頻度で促すか[2]。
この5項目は、契約書のひな型を用意しただけでは埋まりません。埋まるのは、受任者になれる相手を地域で1件でも確保できたときです。逆に言えば、そこさえ押さえれば、あとは国が公開した書式に沿って進められます。契約書式(統合版・解除関係・残置物関係・賃貸借契約特約条項記載例)はPDFとWordで公開され、活用ガイドブックは令和7年10月に第2版が、Q&Aも令和7年10月更新版が出ています[4][3][2]。
最後に、この制度の位置づけを一つ確認しておきます。ガイドブックは、モデル契約条項を、単身高齢者の死亡後に契約関係及び残置物を円滑に処理できるようにするための不安の解消策の1つとして紹介しています[3]。残置物の出口が決まっても、費用の出どころ、見守り、保証は別の論点として残ります。全体の組み立て方は高齢者の入居を断らない物件はどこが違うのか——受け入れている側が契約前に済ませている4つの準備を、亡くなった後の費用面は孤独死保険とは?補償の範囲・オーナーへの説明ポイントを併せてご覧ください。個別の契約の有効性や具体的な条項の設計は事案ごとの判断になりますので、締結にあたっては弁護士等の専門家にご確認ください。
その手前で、入居者と連絡が取れなくなった時点の対応(部屋に入れるのか、警察をいつ呼ぶのか)は入居者と連絡が取れない:部屋に入れるのか、警察はいつ呼ぶのかで条文から整理しています。
- 国土交通省・法務省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」本体(前注=賃借人死亡時に相続人の有無や所在が分からないと賃貸借契約の終了と残置物の処理が困難になる「残置物リスク」の説明、3つのまとまりの構成、同一の受任者との間で締結する場合は1通の契約書として差し支えないこと、残置物リスクへの不安感が生ずるとは考えにくい場面〈例:個人の保証人がいる場合〉で使用すると民法第90条や消費者契約法第10条に違反して無効となる可能性/第1の前注=受任者はまずは推定相続人のいずれかとするのが望ましく、困難な場合は居住支援法人や居住支援を行う社会福祉法人のような第三者、賃貸人を受任者とすることは避けるべき、管理業者は直ちに無効ではないが賃借人(の相続人)の利益のために誠実に対応する必要、受任者は賃借人がその意思に従って選ぶべきこと/第1の第1条解説=解除関係事務委任契約は受任者が委任者の死亡を知った時から6か月の経過により終了/第2の前注=受任者の候補に管理業者を並記/第2の第4条=指定残置物の指定方法(リスト掲載・指標の貼付)と送付先の明示、他人物・遺贈等の指定義務/第2の第6条=死亡から【3か月】経過かつ賃貸借契約終了時に非指定残置物を廃棄、換価の努力義務、保管に適しないものは死亡時に廃棄、第三者立会いの下での状況の確認・記録、3か月は仮の期間で下回る期間は避けるべきこと/第2の第7条=指定残置物の送付・換価・廃棄/第3=賃貸借契約側の条項、契約終了時の再締結の努力義務と通知義務、賃借人死亡を知った賃貸人の受任者への通知義務)。2026年8月26日閲覧。mlit.go.jp(PDF)
- 国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項に係るQ&A」(令和7年〈2025年〉10月)(Q1=原則は単身高齢者〈60歳以上の者〉を想定するが、60歳未満の単身者でも推定相続人が存在しない・所在が不明であるなど死亡時に残置物を処理すべき者と連絡を取ることが期待できない場合は活用が否定されない/不安感が生じにくい場面での利用は民法や消費者契約法に違反して無効となる場合がある/Q2=締結を賃貸借契約締結の条件とすることは差し支えないが賃借人の十分な理解と同意が必要/Q3=既に入居中の者への利用と、賃貸借契約の変更・更新時の留意点/Q4=推定相続人を受任者とすることが困難な場合、相続人調査までは求めず居住支援法人や管理業者などの第三者を想定/Q5=家賃債務保証業者は委任者と利害が対立することがあり人的関係も存在しないため、受任者とした場合は公序良俗に反して無効と判断される可能性/Q6=管理業者が転貸人の立場にある場合は避けるべき、そうでない場合も賃貸人の利益を優先せず賃借人(の相続人)の利益のために誠実に対応する必要/Q7=管理業者の変更で受任者の地位は当然には承継されない/Q11・Q12=指定残置物リストの更新方法と、金庫・容器単位での指定例/Q16=換価により得た金銭等の相続人への返還義務と供託/Q17=戸籍調査のような積極的探索までは求めないが、明らかな手がかりがある場合の連絡は必要/Q18=換価により得た金銭等からの委任事務処理費用の控除/Q19=遺言執行者がいる場合の期間経過前の送付)。2026年8月26日閲覧。mlit.go.jp(PDF)
- 国土交通省『残置物の処理等に関するモデル契約条項の活用ガイドブック』(第2版・令和7年〈2025年〉10月)(借主の死亡後、相続人の有無や所在がわからない場合に賃貸借契約の解除や居室内に残された家財の処理が困難になること、特に単身高齢者に部屋を貸すことを躊躇する問題が生じていること、こうした不安の解消策の1つとして国土交通省及び法務省において令和3年6月に「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定したこと/居住支援法人が受任者となった場合を例に、契約締結・指定残置物の指定・死亡後の契約解除と通知・残置物への対応の4ステップで解説)。2026年8月26日閲覧。mlit.go.jp(PDF)
- 国土交通省「住宅:残置物の処理等に関するモデル契約条項」(モデル契約条項本体〈PDF・Word〉、契約書式4種=[1]統合委任契約書式・[2]解除関係事務委任契約・[3]残置物関係事務委託契約・[4]賃貸借契約特約条項記載例〈各PDF・Word〉、活用ガイドブック第2版〈令和7年10月〉、活用手引き、<大家さんのための>単身入居者の受入れガイド第5版〈令和7年10月〉、身寄りのない入居者向けガイド、Q&A〈令和7年10月更新〉、解説映像、高齢者等終身サポート事業者ガイドラインを掲載)。2026年8月26日閲覧。mlit.go.jp
- 国土交通省 住宅局参事官(マンション・賃貸住宅担当)/住宅局安心居住推進課(協力:法務省民事局)『<大家さんのための>単身入居者の受入れガイド』(令和7年〈2025年〉10月・第5版)(残置物の処理等に関する契約の2類型・想定される受任者・想定される利用場面/受任者について「賃貸人は賃借人と利益相反の関係にあるため、受任者とすることは避けるべき」/改正住宅セーフティネット法関連情報=居住支援法人の業務への残置物処理の追加)。2026年8月26日閲覧。mlit.go.jp(PDF)