終身建物賃貸借の認可が事業者単位になった:申請事項・住宅の届出・解約の条件

高齢の入居希望者を前にして、いちばん先に頭をよぎるのが「亡くなったあと、契約はどうなるのか」という問いです。普通の賃貸借では借家権が相続されるため、解約するには相続人を探して合意を取る必要があります。この手続きを不要にする枠組みが終身建物賃貸借で、2025年(令和7年)10月1日から、その認可の受け方が「住宅ごと」から「事業者ごと」に変わりました[1][2]。この記事では、何をどこに申請するのか、住宅の届出では何を出すのか、契約を途中で終わらせられるのはどんなときかを、公表資料から順に整理します。

終身建物賃貸借とは:賃借人の死亡時に終了し、相続されない賃貸借

終身建物賃貸借は「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(高齢者住まい法)にもとづく制度です。国土交通省は、都道府県知事等の認可を受けた事業者が、借家人が生きている限り存続し、死亡時に終了する(賃借権が相続されない)1代限りの賃貸借契約を結ぶことができる制度と説明しています[1]

普通の建物賃貸借とどこが違うのかは、改正法の説明資料に対比表があります[2]

普通建物賃貸借と終身建物賃貸借の違い(国土交通省・厚生労働省 令和7年3月資料より[2]
普通建物賃貸借終身建物賃貸借
対象賃借人全て高齢者(①60歳以上の単身者 ②配偶者又は60歳以上の親族と同居する者)
期間・期限当事者間で定めた期間(1年以上)又は期間の定めなし。正当な事由がない限り更新される賃借人の死亡に至るまで
相続の有無ありなし(同居配偶者等に限り、賃借人死亡後の一時居住や、死亡後1ヶ月以内の申し出による継続居住が可能)
契約方法書面による契約、口頭による契約書面による契約(公正証書でなくてよい)

実務でとくに効くのは相続の欄です。賃貸借が死亡時に終了するので、解約のために相続人を探す作業が発生しません。 亡くなったあとの部屋の扱いをどう決めておくかについては、残置物はどう片付けるのか——「誰を受任者にできるか」から読む国交省モデル契約条項の実務で、契約を終わらせる話と部屋の中の物を片付ける話が別々の枠組みであることを整理しています。

終身建物賃貸借の認可は「住宅ごと」から「事業者ごと」に変わった

改正前は、終身建物賃貸借を行おうとする事業者は対象となる「住宅」ごとに認可を取得する必要がありました[2]。国土交通省と厚生労働省の説明資料は、この方式の課題を2点挙げています[2]

  • 高齢者が入居するかどうかわからない空室時に、認可や改修を行うことは、事業者にとって負担[2]
  • 認可審査に時間を要するため、入居希望があった時に速やかに認可を取ることは困難[2]

入居希望者が現れてから認可を取りにいくのでは間に合わず、かといって空室の段階で全戸ぶんの認可と改修を進めるのは重い——この板挟みが、制度が使われにくかった理由として整理されているわけです。

改正後は「事業者」として認可を取得したうえで、終身建物賃貸借をする時に、対象となる住宅を届出する方式になりました[2]。国土交通省のページも、事前に「事業者」として認可を受け、実際に終身建物賃貸借を行うまでに住宅を改修し、届け出ればよいと説明しています[1]。同資料は、この変更の効果を「事業者の手続負担を軽減」と記しています[2]

認可で申請する事項と、住宅の届出で出す事項の切り分け

「事業者単位になった」と聞いても、では何が認可に残り、何が届出に移ったのかが分からないと動けません。改正法の説明資料に、現行と改正後の申請事項が並べてあります[2]

認可・届出で扱う事項の変化(国土交通省・厚生労働省 令和7年3月資料より[2]
改正前(住宅ごとに認可)改正後
認可で申請する事項事業者の氏名又は名称及び住所/住宅の位置/住宅の戸数/住宅の規模・構造・設備/賃借人の資格に関する事項/賃貸の条件に関する事項 等事業者の氏名又は名称及び住所/賃借人の資格に関する事項/賃貸の条件に関する事項 等
住宅の届出で出す事項住宅の位置/住宅の戸数/住宅の規模・構造・設備

並べると切り分けがはっきりします。物件に紐づく情報(位置・戸数・規模・構造・設備)が届出側へ移り、認可に残ったのは事業者そのものと、契約のルールに関する事項です[2]。つまり認可は「この会社が終身建物賃貸借をやってよいか」の審査になり、物件は後から足していく形になりました。

届出を出せば終わり、ではありません。同資料には都道府県は、届出後に要件適合性を確認し、要件に適合しない場合は改善命令も可能命令に従わない場合は認可取消しとなり得ると明記されています[2]。審査のタイミングが前から後ろへ動いただけで、基準そのものが緩んだわけではない、と読むのが正確です。

認可を受けずに「相続されない」特約だけ結ぶことはできるか

ここは誤解が起きやすいところなので、先に答えを書きます。できません。 改正法の説明資料は、終身建物賃貸借の欄に「(『死亡時に終了する(相続人に相続されない)』特約は無効)」と注記しています[2]

借地借家法の原則では、賃借人が亡くなっても賃貸借は終了せず、借家権は相続されます。これを外せるのは、高齢者住まい法にもとづく認可を受けた事業者が、認可を受けた内容で契約したときだけです[1][2]。契約書に一文入れておけば同じ効果が得られる、という性質のものではありません。

逆に言えば、認可を取る手続きの重さはこの一点と引き換えです。相続人を探さずに契約を終わらせられる枠組みは、ほかにありません。高齢の入居者を断らない物件が実際にどこを揃えているのかは、高齢者の入居を断らない物件はどこが違うのかで保証・見守り・残置物・近隣説明の4点から分解しています。

なお、すでに一般の賃貸借で入居している高齢者に退去を求める場合の枠組みは、これとは別に借地借家法の更新拒絶・正当事由の話になります(高齢の入居者に退去してもらうことはできるのか——更新拒絶・立退きの正当事由を借地借家法から読む)。

認可申請から住宅の届出までの流れと必要書類

手続きの具体は自治体が公表しています。神奈川県の案内では、事業認可申請書(省令別記第一号様式)を提出し、対象住宅は省令別記第二号様式で届け出る、という2段構えが示されています[4]

同県が挙げている添付書類は次のとおりです[4]

神奈川県の案内における添付書類[4]
段階書類
事業認可の申請時誓約書(高齢者住まい法第57条第1項の基準に適合する旨)/終身建物賃貸借契約書/仮入居賃貸借契約書/前払家賃に関する書類(該当する場合)/長期修繕計画/家賃・敷金の収納状況に関する書類
住宅の届出時平面図(新築は各階平面図)/加齢対応構造等チェックリスト

注目したいのは、認可の段階で契約書のひな型を出す点です。国土交通省は終身建物賃貸借標準契約書家賃債務保証業者型と連帯保証人型の2種類公表しているので[1]、自社の保証の組み立てに合うほうを土台にできます。保証をどちらで組むかの前提は、家賃債務保証と居住支援法人:高齢者入居を支える仕組みで整理しています。

もう一点、書類一覧に「仮入居賃貸借契約書」が含まれていることも見落とせません[4]。終身建物賃貸借には、本契約の前に試しに住んでみる仮入居の仕組みが用意されており、申請時点でその契約書も求められる、ということです。

終身建物賃貸借にできる住宅の基準:面積・設備・バリアフリー

住宅の基準は届出側に移りましたが、内容が変わったわけではありません。大阪市が公表している基準は次のとおりです[3]

  • 規模:新築25㎡以上、既存18㎡以上(居間・食堂等を共同利用する場合は13㎡以上も可)[3]
  • 設備:各戸に台所・水洗便所・収納設備・浴室を備えたもの[3]
  • 構造:バリアフリー構造であること[3]

バリアフリーの中身について、国土交通省は段差の無い床、浴室等の手すり、幅の広い廊下を備えたものであること等と例示しています[1]。細かな数値は加齢対応構造等の基準として告示で定められており[5]、届出時の加齢対応構造等チェックリストがその確認票にあたります[4]

面積の数字は、セーフティネット住宅(登録住宅)の規模基準と同じ並びです(新築25㎡・既存18㎡・一部共用13㎡)[3]。登録住宅側の基準はセーフティネット住宅の登録とは:面積・耐震・家賃の基準と申請の流れにまとめてあるので、両方を検討している場合は突き合わせて読んでください。

なお告示には都道府県高齢者居住安定確保計画・市町村高齢者居住安定確保計画によるハード基準の強化又は緩和という枠組みもあります[5]自治体によって基準が上下する余地があるということなので、物件所在地の運用を先に見ておくのが安全です。

事業の運営で守ることは何か:前払家賃の保全と権利金の受領禁止

物件と契約のほかに、お金の扱いにも基準があります。大阪市は事業運営の基準として、前払家賃を一括して受領する場合、一定の保全措置を講じること敷金以外の権利金・礼金等を受領しないこと、適切な管理体制を挙げています[3]

前払金の保全措置は「終身建物賃貸借の家賃の前払金の保全措置」という告示で定められています[5]。終身にわたる契約なので前払いの額が大きくなりやすく、事業者側に何かあったときに入居者が住まいを失わないようにする趣旨だと読めます。

また大阪市は借家権の譲渡・転貸は禁止とも記しています[3]。1代限りの契約という性質から素直に導かれる制限です。

終身建物賃貸借に入居できるのは誰か:60歳以上と同居者の範囲

入居できる人は高齢者(①60歳以上の単身者 ②配偶者又は60歳以上の親族と同居する者)とされています[2]。大阪市は同居できるのは配偶者または60歳以上の親族で、配偶者には年齢制限がないと補足しています[3]

つまり58歳の配偶者と暮らす65歳の入居者は対象に入ります。一方で、60歳未満の子と同居する場合は当てはまりません。募集の段階で「単身高齢者だけの制度」と思い込むと、使える場面を取りこぼします。

入居審査そのものの考え方は、高齢者の入居審査:何を見て、どこまで確認するのかで別途整理しています。終身建物賃貸借は契約形態の選択であって、審査を省く仕組みではありません。

終身建物賃貸借を途中で解約できるのはどんなときか

「死亡まで続く契約」と聞くと、入居者が動けなくなるのではと心配になります。実際には、賃借人からの中途解約の申し入れ条件が定められています[2]

  1. 療養、老人ホーム等への入所等により、居住が困難となったとき[2]
  2. 親族と同居するため、居住する必要がなくなったとき[2]
  3. 賃貸人に改善命令違反があったとき[2]
  4. 6ヶ月以前の申入れ[2]

このいずれかに当たれば解約できます[2]。介護施設へ移るとき、子と同居するとき——高齢期に住み替えが起きる代表的な場面が、そのまま条件として書き込まれています。4番目の「6ヶ月以前の申入れ」があるため、理由を問わない解約の道も残されています[2]

参考までに普通建物賃貸借では、期間の定めがない場合はいつでも申入れができ(申込後3ヶ月を経過することにより賃貸借が終了)、期間の定めがある場合は中途解約が不可とされています[2]

賃借人が亡くなったあと、同居していた配偶者はどうなるのか

1代限りの契約なので、同居していた家族がすぐ退去を迫られるのでは、という疑問が残ります。ここにも手当てがあります。改正法の説明資料は同居配偶者等に限り、賃借人死亡後の一時居住や、賃借人死亡後1ヶ月以内の申し出による継続居住(終身建物賃貸借)が可能としています[2]。大阪市も賃借人死亡後、配偶者か60歳以上の同居親族が申出すれば同様の契約継続が可能と説明しています[3]

「相続はされないが、同居者は申し出れば自分の名前で続けられる」——この二段構えが制度の要点です。相続を経由しないので、他の相続人との調整も要りません。

ただし申し出には1ヶ月という期限があります[2]。契約時と、亡くなった直後の連絡の場面で、この期限を伝えられる体制があるかどうかが実務の分かれ目になります。入居中の連絡の取り方については高齢入居者とのトラブルを未然に防ぐコミュニケーション設計を、日々の安否確認の仕組みそのものを検討する場合は日々の安否確認の仕組みを見るのような見守りサービスもあわせて検討してください。

終身建物賃貸借の認可はどこに申請するのか

認可権者は「都道府県知事等」です[1]。改正法の説明資料には、改正事項ごとの対象自治体を示した表があり、終身建物賃貸借の認可は、都道府県と政令市・中核市が「全て」、一般市・町村が「一部」と整理されています[2]

実際に自治体側も個別に受付ページを設けており、たとえば神奈川県は県土整備局建築住宅部住宅計画課民間住宅グループを窓口として案内しています[4]。国土交通省も具体的な手続や基準等については、終身賃貸事業を行おうとする賃貸住宅の存する都道府県に確認するよう案内しています[1]

様式番号・添付書類・事前相談の要否は自治体ごとに案内が分かれるため、物件所在地の自治体ページを先に開いてから準備を始めてください。 個別の認可の可否は所管窓口の判断になります。

まとめ:認可は事業者で取り、住宅は使うときに届け出る

2025年10月1日の改正で変わった点と、変わらなかった点を分けて押さえておくのが実務的です。

  • 変わった点:認可は「住宅ごと」から「事業者ごと」へ。物件の位置・戸数・規模・構造・設備は、終身建物賃貸借をする時までの届出に移った[2]
  • 変わっていない点:住宅の基準(新築25㎡・既存18㎡、台所・水洗便所・収納設備・浴室、バリアフリー構造)[3]、前払家賃の保全措置と権利金等の受領禁止[3]、入居できる人の範囲[2]
  • 審査は無くならない:届出後に都道府県が要件適合性を確認し、適合しなければ改善命令、従わなければ認可取消しとなり得る[2]
  • 認可なしの特約は無効:契約書に「死亡時に終了する」と書くだけでは効力を持たない[2]

空室の段階で全戸を用意しておく必要がなくなった以上、「事業者としての認可だけ先に取っておき、話が来たら届け出る」という構えが取りやすくなりました。高齢者の受け入れを空室対策として検討する段階の判断材料は空室対策の新常識:ターゲットを高齢者に広げる判断基準に、改正住宅セーフティネット法まわりの全体像は改正住宅セーフティネット法で不動産会社がやることにまとめています。

最終確認日:2026年8月31日(本記事に記載した制度内容は、この日に一次資料を取り直して照合しています)。

出典
  1. 終身建物賃貸借の定義(都道府県知事等の認可を受けた事業者が、借家人が生きている限り存続し死亡時に終了する〈賃借権が相続されない〉1代限りの賃貸借契約を結ぶことができる制度)、令和7年10月1日施行の変更(事前に「事業者」として認可を受け、実際に終身建物賃貸借を行うまでに住宅を改修し届け出ればよい)、入居者要件、加齢対応構造の例示(段差の無い床、浴室等の手すり、幅の広い廊下)、終身建物賃貸借標準契約書(家賃債務保証業者型・連帯保証人型)、都道府県への確認の案内:国土交通省「終身建物賃貸借」。mlit.go.jp
  2. 改正のポイント(住宅ごとの認可→事業者の認可+住宅の届出)、改正前の課題2点、認可・届出で扱う事項の対比、届出後の要件適合性確認・改善命令・認可取消し、認可を受けない特約の無効、普通建物賃貸借との対比表(対象賃借人・期間・相続の有無・中途解約の申し入れ条件・契約方法)、改正事項ごとの対象自治体(終身建物賃貸借の認可=都道府県・政令市・中核市は全て、一般市・町村は一部):国土交通省住宅局安心居住推進課・厚生労働省社会・援護局ほか「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)等の一部を改正する法律等について」(令和7年3月)p.3・p.4・p.16。mhlw.go.jp(PDF)
  3. 入居者資格(60歳以上、同居できるのは配偶者または60歳以上の親族で配偶者に年齢制限なし)、賃借人死亡後の同居者による契約継続の申出、借家権の譲渡・転貸の禁止、住宅の規模基準(新築25㎡以上/既存18㎡以上/共同利用の場合13㎡以上)、設備基準(各戸に台所・水洗便所・収納設備・浴室)、事業運営の基準(前払家賃の保全措置、敷金以外の権利金・礼金等を受領しないこと):大阪市「終身建物賃貸借制度」。city.osaka.lg.jp
  4. 事業認可申請書(省令別記第一号様式)と対象住宅の届出(省令別記第二号様式)の2段構え、添付書類(誓約書・終身建物賃貸借契約書・仮入居賃貸借契約書・前払家賃関連書類・長期修繕計画・家賃および敷金の収納状況に関する書類/届出時の平面図・加齢対応構造等チェックリスト)、令和7年10月1日以降の取扱い、申請窓口:神奈川県「終身建物賃貸借事業の認可について」。pref.kanagawa.jp
  5. 関係法令および告示の一覧(高齢者の居住の安定確保に関する法律・同施行令・同施行規則、終身建物賃貸借の家賃の前払金の保全措置、シェアハウス型の基準、終身建物賃貸借の加齢対応構造基準、都道府県・市町村高齢者居住安定確保計画によるハード基準の強化又は緩和):国土交通省「高齢者の居住の安定確保に関する法律(関係法令)」。mlit.go.jp

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