「一人暮らしの高齢者が増える街はどこか」——高齢者向けの賃貸募集を検討する不動産会社にとって、商圏の将来像を測るうえで気になるテーマです。ただし、この手の「ランキング」は読み方を誤ると判断を見誤りやすい落とし穴があります。単身高齢者が「割合として多い」都道府県と、「これから増える数・増加率が大きい」都道府県は、実はまったく別の地図になるからです。本記事では、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の『日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)(2024年推計)』をもとに、両者を混同しないための読み方を整理します。数値には推計の基準年(2020年)と目標年(2050年)を併記し、断定的な表現は避けてまとめています。
まず全国の前提:単独世帯は4割超へ
都道府県別の話に入る前に、全国の大きな流れを押さえておきます。社人研の全国推計によれば、一般世帯に占める「単独世帯(一人暮らし)」の割合は2020年の38.0%から2050年には44.3%へ上昇すると見込まれています[1]。世帯の4割超が一人暮らしになる計算です。このうち世帯主が65歳以上の「単独世帯」は、全国で2020年から2050年にかけて46.9%増加すると推計されており、一人暮らし高齢者の世帯は今後も増える方向にあります[1]。背景には高齢化の進行があり、総務省統計局の人口推計では2025年10月1日現在の高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)は29.4%と過去最高を更新しました[3]。
ただし全国値はあくまで平均です。全国規模で需要がどう動くのかは単身高齢世帯はどこまで増える?データで読む賃貸需要にまとめており、本記事はその全国像を地域単位に分解する位置づけになります。同じ「単身高齢者が増える」でも、地域によって現れ方は大きく異なります。ここで役立つのが、都道府県別に細かく推計した社人研の都道府県別推計です[2]。
「割合ランキング」と「増加率ランキング」は別物
単身高齢者の多寡を都道府県で比べるとき、少なくとも2つの異なる指標があります。①割合(ストック)は「その地域の世帯や高齢者に占める一人暮らしの比率」、②増加率(フロー)は「これから何%増えるか」です。この2つは上位に並ぶ都道府県が大きく食い違います。
割合が高いのは西日本・地方が中心。世帯主が65歳以上の「単独世帯」が一般世帯総数に占める割合をみると、全国は2020年の13.2%から2050年には20.6%へ上昇します[2]。都道府県別では2050年にもっとも高いのは高知県(27.0%)で、徳島県(25.3%)、愛媛県(24.9%)が続き、32道府県で20%を超える見通しです[2]。65歳以上人口に占める一人暮らしの割合(高齢者の独居率)でみても、2050年に高いのは東京都(34.8%)や大阪府(32.1%)、高知県(30.6%)などで、地方と一部大都市が混在します[2]。
増加率が大きいのは大都市圏と沖縄。一方、世帯主が65歳以上の「単独世帯」の2020〜2050年の増加率が高いのは、沖縄県(86.6%)、滋賀県(81.2%)、愛知県(71.1%)、宮城県(69.9%)など、おもに大都市地域と沖縄県です[2]。数の規模でみると、高齢単身世帯がもっとも多い東京都では、2020年の89万世帯から2050年には148万3千世帯へと増える推計です[2]。つまり「比率で見れば地方が高いが、増える絶対数・伸び率で見れば都市部が大きい」という二層構造になっているのです。
| 順位 | ①割合が高い都道府県 (2050年・一般世帯総数に占める割合) | ②増加率が大きい都道府県 (2020→2050年) |
|---|---|---|
| 1 | 高知県 27.0% | 沖縄県 86.6% |
| 2 | 徳島県 25.3% | 滋賀県 81.2% |
| 3 | 愛媛県 24.9% | 愛知県 71.1% |
| 4 | (本記事では上位3県のみ紹介) | 宮城県 69.9% |
| 全国 | 20.6% | 46.9%[1] |
世帯の地図に「住宅ストックの地図」を重ねる
ここまでは世帯の推計、つまり需要側の話でした。しかし実務で効いてくるのは、その需要を受け止める供給側——つまり住宅がどれだけ空いているかです。この2つは、同じ地図になるとはかぎりません。
総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査』(2023年)の都道府県別データを見ると、供給側の地図は次のようになっています[4]。
| 地域 | 空き家率 | 空き家数 | 共同住宅の割合 | 持ち家率 |
|---|---|---|---|---|
| 全国 | 13.8% | 9,002千戸 | 44.9% | 60.9% |
| 東京都 | 10.9% | 897千戸 | 71.6% | 44.7% |
| 神奈川県 | 9.8% | 467千戸 | 57.0% | 58.7% |
| 愛知県 | 11.8% | 433千戸 | 45.7% | 59.6% |
| 大阪府 | 14.2% | 702千戸 | 57.4% | 54.5% |
| 福岡県 | 12.4% | 335千戸 | 54.8% | 52.7% |
| 北海道 | 15.6% | 452千戸 | 44.6% | 57.0% |
ここで注目したいのが愛知県です。前節のとおり、愛知県は単身高齢世帯の増加率が71.1%と全国でも上位でした[2]。ところが空き家率は11.8%で全国平均13.8%を下回ります[4]。需要が急増する見込みなのに、受け皿は全国平均より薄いという組み合わせです。空き家を高齢者向けに開くときの実務は空き家443万戸をどう活かす?高齢者向け賃貸という選択肢に整理しています。
逆に北海道は空き家率15.6%と全国平均を上回り、2018年の13.5%から2.1ポイント上昇しています[5]。同じ5年間で全国は13.6%から13.8%へ0.2ポイントしか動いていませんから、北海道の増え方は際立っています。供給側にはゆとりが生まれつつある地域だといえます。
需要の伸びと供給のゆとりは、このように別々に動きます。「単身高齢者が増えるから空き家も活かせる」とは限らない——このずれを商圏ごとに確認しておくことが、募集戦略の前提になります。
「率」で見るか「実数」で見るかでも、地図は変わる
前節でランキングの落とし穴として「割合」と「増加率」の違いを挙げましたが、供給側にも同じ構造があります。空き家率と空き家の実数です。
東京都の空き家率は10.9%で、主要都道府県のなかでも低い部類に入ります[4]。数字だけ見れば「東京は空きが少ない」という結論になりそうです。ところが実数は897千戸で、これは全国最多の水準です[4]。母数となる総住宅数が8,201千戸と桁違いに大きいためです。
率で見れば厳しく、実数で見れば豊富——同じ地域が、指標の取り方で正反対に見えます。実務では「率が低いから諦める」のではなく、実数がどれだけあるかを併せて確認するほうが実態に近づきます。
また、住宅の建て方にも地域差があります。東京都は共同住宅が71.6%で全国1位、持ち家率は44.7%にとどまります[4]。つまり過半の世帯が借りて住んでいる地域です。一方、愛知県は一戸建51.0%・共同住宅45.7%と全国平均(52.7%/44.9%)にほぼ一致し、持ち家率も59.6%と全国並みです[4]。同じ大都市圏でも、住まいの形はかなり違います。
受け皿となる行政の窓口にも、大きな地域差がある
もうひとつ、ランキングからは見えにくい地域差があります。住宅確保要配慮者の相談を受ける「居住支援協議会」の数です。
国土交通省の一覧(令和8年6月30日時点)によれば、全国の協議会は192。その内訳には大きな偏りがあります[6]。
協議会と居住支援法人の役割分担は居住支援協議会とは?不動産会社が連携して得られるメリットで扱っています。
- 東京都:38(都+22区15市)。全国192のおよそ5分の1が集中している
- 福岡県:11(県+10。町単位や複数自治体の広域協議会を含む)
- 大阪府:10(府+9市)
- 神奈川県:9(県+8市)
- 愛知県:8(県+7市)
- 北海道:5(道+4市町のみ)
北海道は面積を考えると窓口が地理的にかなり薄く、東京都との差は歴然としています[6]。高齢の入居希望者を受け入れる際、保証や見守りの相談先が商圏内にあるかどうかは、実務の進めやすさを左右します。
窓口の運営主体にも違いがあります。多くは自治体の住宅部局ですが、社会福祉法人やNPO法人が担当している市もあります[6]。住まいの相談を暮らし全体の相談として受ける入口があるかどうかも、地域を見るときの材料になります。
不動産会社がランキングをどう読むか
この二層構造を踏まえると、「単身高齢者が増える街ランキング」を実務に落とし込む視点が見えてきます。第一に、自社商圏がどちらのタイプかを見分けることです。割合が高い地方の都市では、すでに一人暮らし高齢者が住まいの主要な担い手であり、受け入れ体制づくりが足元の課題になりやすいと考えられます。対して増加率が高い都市部では、これから世帯構成が変わる局面で、募集対象を高齢者へ広げる準備が中期的なテーマになります。
第二に、単一の指標で優劣を決めないことです。ランキングは順位という形をとるため一見わかりやすい半面、割合と増加率、世帯数と人口比では順位が入れ替わります。自社が「今の入居者層」を見たいのか「これからの伸びしろ」を見たいのかで、参照すべき指標は変わります。社人研の推計は都道府県別・世帯主年齢別に細かく公表されているため、商圏に近い都道府県の数値を目的に応じて選ぶことが読み方の要です[2]。
第三に、数の増加が意味する運用面の変化にも目を向けたい点です。一人暮らし高齢者が増えるほど、入居後の安否確認や早期発見といった日常の見守りニーズも高まります。募集力だけでなく、こうした不安に応える仕組みを併せて用意できる不動産会社は、増える単身高齢者の住まいニーズを受け止めやすくなります。具体的な見守りニーズに応える仕組みを見ることで、対応内容を確認できます。断定的な効果は約束せず、公的データにもとづいて「自社の商圏で何が起きているのか」を丁寧に読み解くことが、高齢者入居支援の第一歩になります。
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)(令和6(2024)年推計)」。全国の単独世帯割合38.0%(2020年)→44.3%(2050年推計)、世帯主65歳以上の単独世帯は2020→2050年に46.9%増加。ipss.go.jp(PDF)
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)(令和6(2024)年推計)」。世帯主65歳以上の単独世帯が一般世帯総数に占める割合の都道府県範囲・増加率・独居率等(基準2020年・目標2050年)。ipss.go.jp(PDF)
- 総務省統計局「人口推計(2025年10月1日現在・令和2年国勢調査を基準とする確定値)」高齢化率29.4%(65歳以上人口3,622万人)。同値は内閣府『令和8年版高齢社会白書(全体版)』第1章第1節1 表1-1-1 に掲載。cao.go.jp(PDF)
- 都道府県別の空き家率・空き家数・共同住宅の割合・持ち家率(2023年):総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査』基本集計 結果の概要 付表「都道府県別の主な指標」。stat.go.jp(確報PDF・付表)
- 空き家率の2018年→2023年の推移(全国13.6→13.8%/北海道13.5→15.6%):総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査』住宅数概数集計 表2。stat.go.jp(速報PDF)
- 居住支援協議会の都道府県別設置状況(全国192・令和8年6月30日時点):国土交通省『住宅確保要配慮者居住支援協議会について』。mlit.go.jp