高齢入居者の保証人が死亡・連絡不能になったとき、更新を拒否する前に確認すること

長く住んでいる高齢の入居者の更新書類を整理していて、気づくことがあります。連帯保証人として名前が載っている人が、もう亡くなっている。あるいは、電話番号が変わっていて連絡が取れない。

ここで多くのオーナー・管理会社が立てる仮説は、「保証人がいない状態では、更新できないのではないか」というものです。滞納や原状回復のときに頼れる相手がいなくなるのだから、この機会に入居者に退去してもらうしかない——そう考えて、更新拒絶や解約の相談に進むケースがあります。

この記事は、その仮説を検証する前に確認しておきたいことを、民法の保証契約の条文と、借地借家法の正当事由の条文、そして代替手段としての家賃債務保証の仕組みから整理したものです。結論を先に書くと、「保証人がいない」ことそのものは、更新を拒否できる理由にはなりません。問題はもっと具体的で、対処のしかたも別にあります。

保証人が死亡すると、その保証契約はどうなるのか

まず、法律上の効果を確認します。個人が保証人になる賃貸借の保証は、民法上「個人根保証契約」にあたります。第465条の2第1項・第2項は、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約であって保証人が法人でないものを個人根保証契約とし、極度額(上限額)を定めなければ効力を生じないとしています[1]

そのうえで第465条の4第1項第3号は、主たる債務者または保証人が死亡したときは、個人根保証契約における主たる債務の元本は確定すると定めています[1]。つまり、保証人が亡くなった時点までに発生していた債務(滞納家賃など)は保証の対象に残りますが、それ以降に新たに発生する家賃債務は、法律上、保証の対象から外れます[1]。ただし、これは2020年4月1日以降に結ばれた(または合意で更新された)保証契約の話です。それより前に結ばれ、保証について合意更新をしていない契約には改正前の民法が適用されます[5]。長く住んでいる入居者ほどこちらに当たる可能性が高いので、まず保証契約を結んだ日と、更新時に保証人も署名し直したかを契約書で確認します。

2020年4月以降の保証契約であれば、これは、契約書に保証人の名前が残っていても、実質的には「保証が付いていない状態」になっているということです。保証人の死亡や連絡不能に気づいたときに感じる不安の正体は、ここにあります。保証人の死亡がなぜ賃借人側の資金繰りリスクになるのかは高齢入居者に連帯保証人がいない場合の実務対応で扱っています。本記事はオーナー側の判断に絞ります。

「保証人がいない」は、更新拒否の正当事由に直接なるのか

ここで、更新を拒否できるかどうかの条文に戻ります。借地借家法第28条は、更新拒絶・解約申入れの正当事由を、賃貸人および賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況および現況、明渡しと引換えの給付の申出、を考慮して判断すると定めています[2]

この4つの考慮要素に、「保証人の有無」は直接は挙げられていません。高齢であること自体が正当事由の条文上の要素ではないのと同じ構造です(この点は高齢の入居者に退去してもらうことはできるのか——更新拒絶・立退きの正当事由を借地借家法から読むで条文ごとに整理しています)。「保証人がいなくなったから更新を拒否する」という説明だけでは、正当事由の総合判断における材料としては弱く、それ単独で正当事由が認められると考えるのは条文の読み方として無理があります[2]

実務で保証人の不在が問題になるとすれば、それは「賃貸借に関する従前の経過」や「使用を必要とする事情」の一部として、賃料回収や原状回復費用のリスクが具体的にどう手当てされているかという形で持ち出される場合です[2]。つまり、争点になるのは「保証人がいるかどうか」ではなく「回収の手段が用意されているかどうか」です。この違いを押さえておくと、次に何を確認すればよいかが見えてきます。

更新を止めたくなる、本当の理由は何か

保証人の不在に気づいたときにオーナー・管理会社が実際に心配しているのは、多くの場合、次の2点に整理できます。

  • 家賃を滞納されたとき、請求する相手がいなくなること
  • 退去時の原状回復費用や、万一のときの残置物処理の費用を、誰も負担してくれないこと

この2つはどちらも「保証人という人」がいなければ解決できない問題ではありません。保証を法人(家賃債務保証会社)に切り替えることで、同じ機能を代替できます。不安の中身が具体的であるほど、更新拒否より先に検討できる選択肢があります。見守りを組み合わせて入居継続の不安全体を小さくする考え方は高齢入居者の見守りを更新の機会に足せないか相談するところからも整理できます。

更新拒否の前に検討できる選択肢——家賃債務保証会社への切替

国土交通省は、一定の基準を満たす家賃債務保証業者を国が登録・公表する「家賃債務保証業者登録制度」を設けています[3]。登録業者は業務の適正な実施が求められ、誇大広告の禁止・重要事項の説明・書面交付・帳簿の備付けといった業務ルールが課されます[3]個人保証人がいなくなった入居者について、更新のタイミングで登録業者の保証に切り替えるのは、実務上とられる選択肢のひとつです。

あわせて、住宅セーフティネット制度のもとでは居住支援法人が、情報提供・相談、見守りなどの生活支援、登録住宅の入居者への家賃債務保証等の業務を担うとされています[4]保証だけでなく、緊急連絡先や見守りまで含めて相談できる先が公的に整備されているということです[4]。保証会社・居住支援法人・住宅セーフティネット制度の使い分けは家賃債務保証と居住支援法人:高齢者入居を支える仕組みに整理しています。

更新の機会にあわせて、保証だけでなく緊急連絡先も点検しておくと、次に同じ状況(保証人・緊急連絡先が高齢で先に亡くなる、または連絡が取れなくなる)が起きたときに、また同じ判断で立ち止まらずに済みます。更新の機会にやり直せる項目の一覧は高齢の入居者の契約更新でオーナーがやり直せること——法定更新・緊急連絡先・見守りの追加にまとめています。

まとめ:保証人の不在に気づいたときに確認する順番

  1. 保証人が死亡・連絡不能になった時点と、保証契約を結んだ(合意更新した)日を確認する。2020年4月以降の個人根保証なら保証人の死亡で元本が確定し、それ以降の家賃債務は保証の対象から外れます(民法第465条の4第1項第3号)[1]。それより前の契約には改正前の民法が適用されます[5]
  2. 「保証人がいない」だけを理由に更新拒否を判断しない。借地借家法第28条の4要素に保証人の有無は直接は挙げられていません[2]
  3. 心配の中身を具体化する。滞納時の回収と、退去時の費用負担のどちらが不安なのかを分けて考えます
  4. 家賃債務保証会社への切替を検討する。国の登録制度がある業者を選ぶと、業務ルールの面で一定の安心材料になります[3]
  5. 居住支援法人という選択肢も確認する。保証・相談・見守りまで含めて連携できる場合があります[4]
  6. 更新の機会に、緊急連絡先や見守りも合わせて点検する。保証人の不在は単発の問題ではなく、繰り返し起こりうる前提として備えておきます

「保証人がいない」という事実と、「更新を拒否できる」という判断のあいだには、条文上の距離があります。その距離を埋めずに退去の方向へ進めると、時間も費用もかかる手続きに入ったうえで、正当事由の説明に詰まることになりかねません。先に保証を組み直すほうが、多くの場合は早く済みます。

出典
  1. 第465条の2第1項・第2項(一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約であって保証人が法人でないものを個人根保証契約とし、極度額を定めなければ効力を生じないこと)、第465条の4第1項第3号(主たる債務者又は保証人が死亡したときは個人根保証契約における主たる債務の元本は確定すること):総務省行政管理局「e-Gov法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号)」。条文はe-Gov法令APIの全文XMLで確認。laws.e-gov.go.jp(2026年9月18日確認)
  2. 第28条(正当事由の考慮要素=「建物の賃貸人及び賃借人……が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」):総務省行政管理局「e-Gov法令検索 借地借家法(平成三年法律第九十号)」。laws.e-gov.go.jp(2026年9月18日確認)
  3. 家賃債務保証業者登録制度(告示公布2017年10月2日。任意の登録制度/誇大広告の禁止・重要事項の説明・書面交付・帳簿の備付け等の業務ルール):国土交通省「家賃債務保証業者登録制度」。mlit.go.jp(2026年9月18日確認)
  4. 居住支援法人の業務(「情報提供・相談、見守りなどの生活支援、登録住宅の入居者への家賃債務保証等の業務」):国土交通省「住宅セーフティネット制度 ~誰もが安心して暮らせる社会を目指して~」。mlit.go.jp(2026年9月18日確認)
  5. 2020年4月1日施行の民法改正の経過措置として、施行日前に締結された契約には改正前の民法が適用され、施行日後に当事者が合意によって更新したときは改正後の民法が適用されること:法務省「2020年4月1日から賃貸借契約に関する民法のルールが変わります」(平成31年2月発行)。moj.go.jp(PDF)(2026年9月19日確認)

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