「空室が埋まらない」「築年数が経った物件の借り手が見つからない」——賃貸を扱う不動産会社にとって、空室対策は続く課題です。一方で、高齢のひとり暮らしなど「借りたいのに借りにくい」層は増え続けています。本記事では、総務省や国土交通省が公表する公的データをもとに、余っている賃貸空室を「高齢者向け賃貸」として活かすという選択肢を、不動産会社の実務目線で整理します。
賃貸用の空き家は443.6万戸、空き家率は13.8%で過去最高
総務省の「令和5年住宅・土地統計調査」(2023年10月1日現在)によると、空き家数は900万戸を超え、空き家率は13.8%と過去最高になりました[1]。このうち「賃貸用の空き家」は443.6万戸にのぼります[1]。つまり、貸すために用意されているのに借り手がついていない住戸が、全国で440万戸規模で存在しているということです。
賃貸用の空き家は、立地や築年数、設備などさまざまな理由で埋まりにくくなっています。しかし「貸せる状態にある住戸が大量に余っている」という事実は、裏を返せば、これまで対象にしていなかった層に目を向けることで埋められる余地があることも意味します。
「借りたい高齢者」は構造的に増えている
供給が余る一方で、需要側では高齢の入居希望者が増えています。総務省統計局の人口推計によると、2025年10月1日現在の65歳以上人口は約3,622万人で、総人口に占める割合(高齢化率)は29.4%と過去最高を更新しました[2]。およそ3人に1人が高齢者という水準です。
高齢化が進むほど、持ち家からの住み替えや、家族と離れた住まいの確保など、賃貸住宅を必要とする高齢者は増えていきます。「貸せる部屋は余っている」のに「借りたい高齢者は増えている」——この2つがうまくつながっていないことが、いまの賃貸市場のミスマッチです。空室を抱える不動産会社にとって、このミスマッチは対応次第で機会に変わります。
制度も後押し:改正住宅セーフティネット法と居住サポート住宅
高齢者などの住宅確保要配慮者を受け入れる動きは、制度面でも後押しされています。2025年(令和7年)10月1日に改正住宅セーフティネット法が施行され、あらたに「居住サポート住宅」の仕組みが設けられました[3]。これは、居住支援法人などが大家と連携し、日常の安否確認や訪問による見守り、生活・心身の状況が不安定になったときの福祉サービスへのつなぎといった支援を行う住宅を認定する制度です[3]。
この改正では、入居者の委託にもとづく残置物処理に関する仕組みも整理されました[3]。オーナーが高齢者の受け入れをためらう理由としてよく挙がる「亡くなった後の家財の扱い」などの不安に、制度面から対応が進んでいるといえます。空室活用を考える不動産会社にとっては、こうした制度や支援の枠組みを理解しておくことが、大家への提案材料になります。
「余っている空き家」の中身は、地域でまったく違う
全国443.6万戸という数字は大きく見えますが、実務で使うには粗すぎます。空き家の量も性質も、地域によって相当違うからです。都道府県ごとの高齢世帯と住宅ストックの噛み合わせは単身高齢者が増える街ランキングの読み方(都道府県別データ)で見ています。
総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査』の都道府県別データを見ると、空き家率には次のような開きがあります[4]。
| 地域 | 空き家率 | 空き家数 | 総住宅数 |
|---|---|---|---|
| 全国 | 13.8% | 9,002千戸 | 65,047千戸 |
| 北海道 | 15.6% | 452千戸 | 2,889千戸 |
| 大阪府 | 14.2% | 702千戸 | 4,929千戸 |
| 福岡県 | 12.4% | 335千戸 | 2,703千戸 |
| 愛知県 | 11.8% | 433千戸 | 3,665千戸 |
| 東京都 | 10.9% | 897千戸 | 8,201千戸 |
| 神奈川県 | 9.8% | 467千戸 | 4,765千戸 |
ここで見落としやすいのが、率と実数が逆転する点です。東京都の空き家率は10.9%と低い部類ですが、実数は897千戸で全国最多の水準にあります[4]。母数の総住宅数が8,201千戸と桁違いだからです。「率が低い=活用余地が小さい」とは言えません。
方向も地域で分かれます。全国の空き家率は2018年の13.6%から2023年に13.8%へ上がりましたが、大阪府は15.2%→14.3%、神奈川県は10.8%→9.8%、福岡県は12.7%→12.3%と、いずれも下がっています(速報値ベース)[5]。一方、北海道は13.5%→15.6%と2.1ポイント上昇しました[5]。「全国的に空き家が増えているから活用の余地が広がっている」という説明は、地域によっては成り立ちません。
「貸すために空いている部屋」と「放置された家」を分けて見る
空き家対策の議論では、朽ちた空き家の写真が使われがちです。しかし賃貸実務で扱えるのは、そのうちすぐ貸せる状態にある住戸だけです。
統計はこの2つを区別しています。全体の空き家率13.8%に対し、「賃貸・売却用および二次的住宅(別荘など)を除く空き家率」は5.9%です[5]。差の約8ポイントが、まさに「貸す・売るために市場に出ている住戸」にあたります。
この内訳も地域で違います。大阪府は空き家率14.2%と全国平均を上回りますが、除いたあとの空き家率は4.6%で全国5.9%より低くなります[4]。なお本記事に14.3%と14.2%の2つが出てくるのは、2018年との比較ができるのは速報集計だけ(確報集計は都道府県別の2018年の空き家率を公表していない)ためで、推移は速報値、2023年の水準は確報値を使っています。大阪の空き家は「放置された家」より「貸すために空いている部屋」の比重が高いということです。募集の対象として扱いやすい住戸が多い、と読めます。
自社の商圏がどちらのタイプかを確認しておくと、大家への提案の組み立てが変わります。市場に出ている住戸が多い地域なら募集対象の拡大が効きますし、放置空き家の比重が高い地域なら、まず貸せる状態にする改修の話から入ることになります。
制度を使うなら、商圏に「相談できる窓口」があるかを先に確認する
居住サポート住宅の認定を受けるには、居住支援法人など支援を担う主体との連携が前提になります[3]。つまり、制度を活用できるかどうかは商圏内に相談先があるかに左右されます。
国土交通省の一覧(令和8年6月30日時点)によると、住宅確保要配慮者の相談を受ける居住支援協議会は全国に192あります[6]。ただし分布は大きく偏っています。
- 東京都:38(都+22区15市)。全国192のおよそ5分の1が集中
- 福岡県:11(県+10。町単位や複数自治体による広域協議会を含む)
- 大阪府:10/神奈川県:9/愛知県:8
- 北海道:5(道+4市町のみ)
窓口の運営主体も一様ではありません。自治体の住宅部局が担う例が多い一方、社会福祉法人やNPO法人、住宅供給公社、建築住宅センターなどが事務局になっている地域もあります[6]。空室活用を大家に提案する前に、自社の商圏でどこが窓口になっているかを調べておくと、制度を使った提案の現実味が変わります。
協議会が無い市町村でも、都道府県の協議会が相談を受けます[6]。「うちの市には無いから使えない」と判断する必要はありません。
受け入れの不安は「見守り」などの仕組みで軽減できる
空室を高齢者向けに開くうえで、大家が最も気にするのは居室内での事故や安否確認といった運用面の不安です。こうした不安は、安否確認や見守りのサービス、保険(補償内容は商品により異なります)といった仕組みを組み合わせることで軽減できます。単に「高齢者に貸しましょう」と提案するのではなく、リスクを下げる仕組みとセットで示すことが、大家の合意を得るうえで重要です。見守りサービスの選び分けは見守りサービス比較の視点:高齢入居者の安否確認をどう選ぶで整理しました。具体的な受け入れの不安を軽減する見守りの仕組みを見ることができます。
440万戸規模の賃貸空室と、増え続ける高齢の入居希望者。この2つを橋渡しできる会社は、空室対策と社会的ニーズへの対応を同時に進められます。自社の物件で募集対象を高齢者へ広げるかどうかを判断する具体的な基準は、空室対策の新常識:ターゲットを高齢者に広げる判断基準で整理しています。制度と見守りの仕組みを理解し、大家に安心材料を示せることが、これからの空室活用の起点になります。
- 総務省「令和5年住宅・土地統計調査(2023年10月1日現在)」。stat.go.jp
- 総務省統計局「人口推計(2025年10月1日現在・令和2年国勢調査を基準とする確定値)」高齢化率29.4%(65歳以上人口3,622万人)。同値は内閣府『令和8年版高齢社会白書(全体版)』第1章第1節1 表1-1-1 に掲載。cao.go.jp(PDF)
- 国土交通省「住宅セーフティネット制度について(改正住宅セーフティネット法・2025年10月施行/居住サポート住宅)」。mlit.go.jp
- 都道府県別の空き家率・空き家数・総住宅数(2023年):総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査』基本集計 結果の概要 付表「都道府県別の主な指標」。stat.go.jp(確報PDF・付表)
- 空き家率の2018年→2023年の推移と「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家率」(全国5.9%・大阪府4.6%):総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査』住宅数概数集計 表2。stat.go.jp(速報PDF)
- 居住支援協議会の都道府県別設置状況(全国192・令和8年6月30日時点):国土交通省『住宅確保要配慮者居住支援協議会について』。mlit.go.jp