「高齢者に部屋を貸すのは不安」——そう考える不動産会社は少なくありません。しかし、公的統計が示す人口・世帯の変化を見ると、高齢者向け賃貸の需要は今後さらに拡大していくと考えられます。本記事では、総務省や国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が公表するデータをもとに、不動産会社が向き合う市場の姿を整理します。
高齢化率は29.4%、過去最高を更新
総務省統計局の人口推計によると、2025年10月1日現在の65歳以上人口は3,622万人で、総人口に占める割合(高齢化率)は29.4%と過去最高を更新しました[1]。およそ3人に1人が高齢者という水準です。とくに女性は32.4%と、3人に1人を上回っています[2]。
高齢化は一部の地域だけの話ではありません。都市部でも地方でも、賃貸を扱う不動産会社が高齢の入居希望者と接する機会は、今後ますます増えていくと見込まれます。
65歳以上の単独世帯は2050年に1,083万世帯へ
需要を読むうえで、より重要なのが「世帯」の変化です。社人研の「日本の世帯数の将来推計(全国推計・2024年推計)」では、65歳以上の単独世帯(ひとり暮らし)は、2020年の737.8万世帯から、2050年には1,083.9万世帯へと増加すると見込まれています[3]。一般世帯に占める割合も、13.2%から20.6%へと上昇します。
単独世帯の増加は、賃貸市場に直結します。ひとり暮らしの高齢者は、持ち家からの住み替えや、家族と離れた住まいの確保など、賃貸住宅を必要とする場面が多いためです。つまり、「借りたい高齢者」は構造的に増え続けるということです。
この推計値の意味を、もう少しかみくだいて考えてみます。2020年から2050年にかけて、65歳以上の単独世帯は約350万世帯増える計算です。これは、30年で年あたり十数万世帯規模の新たな住まいニーズが生まれ続けるということを示しています。しかも社人研の推計では、世帯主が65歳以上の世帯が一般世帯に占める割合も、2020年の35.2%から2050年には45.1%へと上昇すると見込まれています。賃貸を扱ううえで、高齢の世帯を「例外」として扱える時代ではなくなりつつあるのです。
空き家は増える一方、需要とのミスマッチが起きている
一方で、供給側はどうでしょうか。総務省の「令和5年住宅・土地統計調査」(2023年10月1日現在)によると、空き家数は900万戸を超え、空き家率は13.8%と過去最高になりました[4]。このうち賃貸用の空き家は443.6万戸にのぼります[4]。この空き家を高齢者向けの受け皿として活かす具体的な考え方は空き家を高齢者向け賃貸として活用する記事に整理しました。
「借りたい高齢者は増えている」のに「貸せる部屋は余っている」。本来であればマッチするはずのこの2つが、うまくつながっていないのが現状です。背景には、オーナー側の不安や、高齢者を受け入れる大家との接点の少なさがあります。
ミスマッチの大きさは、地域によって別物になる
全国では「需要は増え、空き家も増える」という構図ですが、これを自社の商圏にそのまま当てはめると判断を誤ります。供給側の動きは、地域によって向きすら違うからです。
総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査』で空き家率の5年間の推移を見ると、次のように分かれています[7]。
| 地域 | 2018年 | 2023年 | 向き |
|---|---|---|---|
| 全国 | 13.6% | 13.8% | 上昇 |
| 北海道 | 13.5% | 15.6% | 大きく上昇 |
| 愛知県 | 11.3% | 11.8% | 上昇 |
| 東京都 | 10.6% | 11.0% | 上昇 |
| 福岡県 | 12.7% | 12.3% | 低下 |
| 神奈川県 | 10.8% | 9.8% | 低下 |
| 大阪府 | 15.2% | 14.3% | 低下 |
大阪府・神奈川県・福岡県では、全国が上昇するなかで空き家率が下がっています[7]。「空き家が増えているから受け皿には余裕がある」という全国向けの説明は、これらの地域では成り立ちません。逆に北海道は2.1ポイント上昇しており、上がり幅は全国(0.2ポイント)の約10倍にあたります[7]。ただし10倍なのは空き家「率」の上がり幅で、戸数で見ると北海道の空き家は5年間で380千戸から451千戸へ18.7%増、全国の6.0%増に対して約3倍の速さです[7]。
需要側と重ねると、組み合わせはさらに複雑になります。社人研の都道府県別推計では、世帯主65歳以上の単独世帯の2020〜2050年の増加率が高いのは沖縄県86.6%、滋賀県81.2%、愛知県71.1%などです[5]。愛知県は需要が急増する見込みでありながら、空き家率は11.8%と全国平均13.8%を下回ります[6]。需要は伸びるが受け皿は薄いという地域です。
「率」ではなく「実数」で商圏を測る
もうひとつ、全国データを商圏に落とすときに起きやすい誤りが、率だけを見て判断することです。
東京都の空き家率は10.9%で、主要都道府県のなかでは低い部類に入ります[6]。しかし実数は897千戸と全国最多の水準です[6]。総住宅数が8,201千戸と桁違いに大きいためで、率の低さは「活用余地の小ささ」を意味しません。
| 地域 | 空き家率 | 空き家数 | 持ち家率 |
|---|---|---|---|
| 全国 | 13.8% | 9,002千戸 | 60.9% |
| 東京都 | 10.9%(低い) | 897千戸(最多水準) | 44.7% |
| 大阪府 | 14.2% | 702千戸 | 54.5% |
| 神奈川県 | 9.8%(最も低い) | 467千戸 | 58.7% |
| 北海道 | 15.6%(高い) | 452千戸 | 57.0% |
持ち家率にも注目してください。東京都は44.7%で、全国の60.9%を大きく下回ります[6]。過半の世帯が借りて住んでいる地域であり、賃貸市場そのものの厚みが違います。大阪府54.5%、福岡県52.7%も全国平均を下回ります[6]。
市場規模を測るときは、率・実数・持ち家率の3つを並べて見る——これだけで、商圏の性格はかなり具体的に見えてきます。
市場データを自社商圏に落とし込む手順
ここまでは全国の数字です。ただ、実際に募集を担当するのは全国ではなく、自社の商圏です。全国値をそのまま自社の話にすると判断を誤りやすいため、次の3つの手順で足元の数字に翻訳することをおすすめします。
手順1:全国値ではなく都道府県別の推計を見る。社人研は都道府県別の推計も公表しています。そこで示されているのは、2050年の「世帯主が65歳以上の単独世帯」は、すべての都道府県で2020年を上回るという見通しです[5]。増減の方向がどの地域でも同じである以上、「自社の商圏は当てはまらない」と考えられる余地は小さいといえます。まず自社の該当する都道府県の数値を開くところが出発点です。
手順2:「割合」を見たいのか「増加率」を見たいのかを決める。同じ推計でも、指標を変えると上位に並ぶ地域が入れ替わります。2020年から2050年にかけての増加率が高いのは、沖縄県(86.6%)、滋賀県(81.2%)、愛知県(71.1%)、宮城県(69.9%)など、おもに大都市地域と沖縄県です[5]。全国の増加率は46.9%なので[5]、これらの地域は全国平均を大きく上回るペースで増えることになります。「今すでに多いのか」を知りたいのか、「これから伸びるのか」を知りたいのかで参照すべき指標は変わります。指標ごとの読み分けは単身高齢者が増える街ランキングの読み方(都道府県別データ)で詳しく整理しています。
手順3:数字を募集条件と受け入れ体制に翻訳する。データが示すのは需要の大きさまでで、実際に成約に結びつくかどうかは、大家が受け入れを判断できるかにかかっています。増加率の高い地域ほど、募集対象を広げる準備を前倒しする意味がありますが、その際に避けて通れないのが大家側の不安です。この不安の中身と、用意できる備えについてはオーナーの約7割が拒否感。高齢者入居の不安を解く3つの備えで整理しています。商圏の数値を押さえたうえで、受け入れ条件をどう設計するかまで進めて、はじめてデータが実務につながります。
増える単身高齢世帯を受け止めるとき、大家側の不安は数の話ではなく、居室内での事故や安否確認に集まりがちです。この不安に対して近隣の協力者を前提にしない見守りの仕組みを用意しておくと、市場データを見せるだけの提案から一歩進められます。
ミスマッチは、対応できる会社の機会になる
需要と供給のミスマッチは、裏を返せば「橋渡しできる会社」にとっての機会です。高齢者を受け入れられる大家を見つけ、入居希望者に届ける仕組みを持てば、空室対策と社会的ニーズへの対応を両立できます。国も、2025年10月施行の改正住宅セーフティネット法などを通じて、この動きを後押ししています。
数字が示すのは、「高齢者向け賃貸は特殊な一部の話ではなく、これからの標準的な市場になる」ということです。早く備えた会社ほど、増える需要を取り込みやすくなります。
- 総務省統計局「人口推計(2025年10月1日現在・令和2年国勢調査を基準とする確定値)」(総人口1億2,322万人・65歳以上人口3,622万人・高齢化率29.4%)。同値は内閣府『令和8年版高齢社会白書(全体版)』第1章第1節1 表1-1-1 に掲載。cao.go.jp(PDF)
- 内閣府『令和8年版高齢社会白書(全体版)』第1章第1節1(表1-1-1:総人口1億2,322万人/65歳以上人口3,622万人/高齢化率 総数29.4%・男性26.2%・女性32.4%/75歳以上人口2,127万人・17.3%)。cao.go.jp(PDF)
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計・2024年推計)」。ipss.go.jp
- 総務省「令和5年住宅・土地統計調査(2023年10月1日現在)」。stat.go.jp
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)(令和6(2024)年推計)」。世帯主が65歳以上の「単独世帯」は2050年にすべての都道府県で2020年を上回る。2020〜2050年の増加率は沖縄県86.6%・滋賀県81.2%・愛知県71.1%・宮城県69.9%、全国は46.9%増。ipss.go.jp(PDF)
- 都道府県別の空き家率・空き家数・総住宅数・持ち家率(2023年):総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査』基本集計 結果の概要 付表「都道府県別の主な指標」。stat.go.jp(確報PDF・付表)
- 空き家率の2018年→2023年の推移(都道府県別):総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査』住宅数概数集計 表2「空き家率-全国、都道府県」。stat.go.jp(速報PDF)